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バースたちの恋愛日記  作者: 三月 璃夢
第二章 あなたと出会う前の話
20/25

1-5 ニオイ

かなり間が空きましてすいませんでした

一応過去編完結です

僕は人に比べてかなり鼻がいい。

個人の識別はもちろん、近しい人なら発情期直前や番の有無もなんとなくわかる。

そして、今日も。


「おい! 榎本、放課後体育倉庫に来いよ」


いじめっ子の臭いが教室中に充満する。

気持ち悪さにくじけそうになるけど弱者に拒否権なんてない。


「わかりました……」


体育倉庫は半地下にある。

一応、上からライトが差し込むが薄暗く、湿っぽくて埃臭い。

バタンと荒々しい音とともに彼は登場した。

後ろではβの取り巻きが二人ほど入り口を塞いでいる。

当たり前のように身体を触られ、服を剥ぎ取られた。


身体は素直だ、なんてよくあるセリフを思い出したけど無様な声を上げるしかできない口では舌打ちすらできない。

自分からしてくる甘ったるい匂いとアイツからする気持ち悪いフェロモンが混じり合って悪臭を放つ。

首に舌を這わされ、耳元で囁かれる。

腰から伝わる


「なあ! お前Ωだろ……それなら」

「君には番が居たはずだろ!?」

「番……あんなの捨てたに決まってるだろ」


無駄に昂ぶっていた熱が一気に引いた。

それに気づかないのか彼は僕の項に口を近づける。

貧弱な身体では曲がりなりにも運動部のヤツを退かすことなんてできるはずもない。

大嫌いなコイツと一生を過ごすしかないと覚悟を決めた。


そのとき。


ガタガタとドアが揺れ、壊れた。

入ってきたのは同級生の学級委員といじめっ子の部の部長で僕の幼馴染。


「夜空くん! 大丈夫だった?」


先輩が駆け寄ってくる、彼はだ。

匂いはしない。

横で学級委員が説教を食らわしてる。

そのままおぼつかない足取りで倉庫から出た。


リノリウムの床を歩くとちょっと開いた窓から気の早い梅の花びらが学ランの肩に乗った。

今日が部活じゃなかったのは不幸中の幸いた。

こんな別のαにまみれた僕なんかヒナさんに嫌われるに決まっている。


僕は、彼女が好きだ。

クリスマスの少し前、窓格子が冷たくて冷えた廊下を友達に呼ばれて駆けていく、僕の側を離れていく彼女を見て、あの人のモノになりたいと思った。

一歩間違えれば彼女を襲ってしまうかもしれない、そんな危うい心情を引き止めてるのは彼女の横にいつもいるメイさんの存在だ。


教室に荷物を取りに行くと紗良が居た。

強いΩの匂い。

彼女は僕を見るなり飛びかかってきた。

理由はわからないけど重たい身体に鞭を打って細身の幼馴染の攻撃を躱す。

甲高いどこか狂った声、何を言ってるかは所々しか聞き取れない。


「あ……た、のせ……で……ぁぁぁ……!」


聞き馴染んだ、やや癖のある紗良ではない。

直感する、僕にまとわりついたいじめっ子……新井 恵剛、その匂いが許せないのだ。

僕にはまだわからないけど番を失ったΩへの負担を想像を絶するらしい。

その匂いが幼馴染の身体に染み付いてる、そりゃ勘違いもする訳だ。


「僕だって、僕だって! 望んであんなことなったわけじゃないんだよ!!」


涙やらで顔が汚れる。

喉が熱くて仕方ない。

これは咆哮だ、彼女に対する。


狂った声の彼女は僕に近づいて殴ろうとした。

その手を止める。

いくらΩ男性の力が弱くても同性の女性よりは強い。

掴んだ細く生白い腕をぐるっと回す。

「ぎゃん」と、醜い悲鳴とともに紗良が倒れる。

頭に残ってる唯一冷静な部分が警鐘を打ち鳴らす。


「そんなことしたら今の関係がダメになる」


相反する壊れた僕が言い返す。


「もうはなから崩れてるよ」


感情に任せて拳を元幼馴染に振るう。

手に返り血がこびりつくのも気にせず同じ動作を繰り返す。

最初は命乞いと謝罪を唱え続けてた彼女もやがて憎悪を募らせながら死んだ目でこちらを見るようになった。


一週間後、このことは「番を失い錯乱するΩとその元番のαに強姦未遂されたΩの喧嘩」であるとまとめられ新聞の隅の隅に小さく載った。

「錯乱したΩは危ないからちゃんと管理してほしい」というか説教じみた文言と共に。

あの日からさらに親の締め付けがキツくなったのは覚えてる。


まだ未成年かつある意味被害者の僕が処罰されることはなかった

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