0.序章
Prologue
「なぁ、お前絶対Ωだよな!? だから……」
のしかかる体重、貧弱な僕の体には抵抗する術すらなく、無理矢理脚をこじ開けられる。
相手から発せられる匂いに誘発され、熱がどんどんと昂っていく。うなじに歯が当たった。
覚悟を決めぎゅっと目を瞑る。嗚呼、僕は世界で一番嫌いなこの人と一生を過ごすのか。
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「なんでこの子がαなんだ!! うちからはβしか生まれないはずだろ、現に後に生まれたこいつはβなのに。 浮気したのか?この裏切り者!!!」
自分のせいで家庭が壊れていく。両親のすさまじい喧嘩の途中、私は外に放り出された。寒さが身体に凍みる。頬を滑り落ちる水滴が雨粒なのか、涙なのかなんてどうでもよかった。
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死にたかった、死ねかった。首に回された手が離されると同時に空気が肺で満たされる。あまりの勢いにむせかえり、せき込む。下半身に目を向ければ望まなかった事後の残り香がた漂っている。吐き気が込み上げ、胃の中のものを床に散らかした。いっそあの最中に死んでしまえば、こんな惨状見なくて済んだのに。心がじくじくと疼く。痣だらけの身体。誰かの言葉。「あなたがΩに生まれてこなければ」
「……ら……ぞら……よぞら……夜空!!」
友達に肩を揺すられる。
「あ、涼。 僕寝てた?」
「魘されてたぞ、大丈夫か?」
怪訝そうな表情で除きこまれる。
いつもだったら僅かに熱を孕む身体も今は静かだ。
このα選抜コースにいるからαだと思うけれど、彼からは匂いがしない。
僕が飲んでいる抑制剤が強いせいで感受体が鈍ってのかもしれないけれど。
このコースに居れるのは校内では一種アドバンテージだ。
それを穢すわけにはいかない。 僕の唯一の誇りなのだから。
ガタンと靴箱の鍵を雑に閉めた。 ネームプレートが夕陽に反射し文字が浮かび上がった。
「榎本夜空」いつかは変わる僕の苗字。こんな名前、早く捨ててしまいたい。
そんな僕の心中を察することもなく、涼は呑気に話しかけてくる。
「夜空はまだ番、作らないのか? 国の調査だとここ数年番成立年齢下がっているらしいぜ」
「ん? ああ……まだいいかな。 まだ高校生だし、独りを謳歌したいから」
お茶を濁す。
僕にとって番とは『される』ものだ。 服従すべき存在。 そうしないと生きられない。
真っ赤な夕焼けと烏が空を横切る。
肌寒さを纏いだした風が僕らの黒髪を撫でた。
寒くなってきたなーと身を震わせる涼の様子が僕の二つのアメシストに映りこんでいた。
解説:榎本夜空…主人公その1。バース性はΩ。黒髪にアメジストを思わせる紫の瞳の持ち主。自身の性を憎んでいる。頭が並大抵のβを余裕で抜かすほど切れる。α選抜コースに所属。表向きはαとして振る舞う。両親は共にβで疎まれている