4-1 地獄への切符
かなり駆け足です
いつも通り家に帰ってきた、だけなのに。
ドアに鍵がかかってない時点で異変に気付くべきだったのだ。
一歩入ると鉄臭い臭いが蔓延している。
誰かいると直感した。
物音を立てないように注意を払って頭を両親の寝室に覗かせる。
そこには紺のスーツに身を包んだ男女の二人組がいた。
何を言ってるかは聞こえないが胸元に見えるラベルピンには「β」のマークを剣で刺したようなものが描かれている。
ふと、一昨日流れてたテレビがリフレインした。
『最近は「β撲滅の会(BEA)」の活動が活発化しているらしいです。このようなマークのついた服を着用しています。見かけた方は最寄りの警察署までご連絡ください』
とっさに頸に触れる。
番痕はあるがチョーカーはない。
微かな衣擦れの音。
二人が振り返る。
番だろうか。
女の白い首元には銀のペンダントが踊っていた。
「貴様もβか!!」
男の太く低い声が鼓膜に届く。
「僕は、Ωだ……」
「それにしては匂いはしないしチョーカーも着けてないじゃないか!」
懐から取り出されたナイフは燻んだ銀色の剣身を惜しげもなく真紅に染め赤黒く午後の日差しを反射している。
「待って」
女の制止を促す声に男は動きが止まった。
「番痕を確認すればいいのよ」
次の瞬間、女が僕の上に馬乗りになる。
「傷があるわね。あなた、チョーカーは?」
親がΩに産まれたのを忌んでるから、してない……。
そうと気の無い返事。
「帰るわよ」
二人は帰って行った。
しばらくぼーっとしていたがふと気づく。
侵入者の居なくなった部屋の真ん中は血の海が広がっていた。
それだけで彼らに生は既に宿ってないのは一目瞭然だ。
自分の両親が死んだというのに僕の中にあるのは安息感のみで。
もう、邪魔する者はいないのだと真っ黒な僕の声がする。
警察に電話しないと。
速やかな対応によって事件は解決された。
殺人犯は見つからなかったが葬儀も終わり僕はりっくんのとこに行けるかと思って、安心していたのに。
「夜空くん、今夜は児相に行こうか」
え?
「ほら、戸籍上は孤児だからね。結婚はいずれするとはいえしばらくは保護所で生活してほしいんだ」
ここで抵抗してもいいことなんてない。
「ありがとう。 この車に乗ってもらえるかな」
はい。
警察の用意した自家用車に乗り込む。
これが地獄の始まりなんて知る由もなかった。
窓から見える景色から徐々に慣れ親しんだネオンが遠ざかっていくのを眺めていた。
次くらいで高校生の夜空×陸人が終わります。 そのあとは別の二人組(夜空の知り合い)を書こうと思います