3-3 一握の砂金
幸せって偉大だ。
身体がほわほわする。
笑顔が溢れていく。
思わずスキップしそうになる。
陸人さんとのLIMEを何度も見返す。
付き合ってるんだ、彼と番になれたんだ。
昨日の夜から同じことを繰り返して思い出す。
学校に着くまでの時間すら短く感じながら校門をくぐる。
「おはようございます。 夜空さん」
横の席の瑞波さんが挨拶してくる。
前の席の百合もこちらに気づいたようで、「おはよー! 夜空くん!! 何かいいことあった?」
まあねと笑う。
首元にはテーピング。
αと誤魔化すための一環だ。
自分の皮膚に近い色を選んだのとブレザーでうまく隠れているのか気づく者はいない。
今日も淡々と授業を終える。
LIMEを立ち上げると案の定陸人さんからメッセージが届いていた。
「学校どうだった?」
「いつも通り、眠くなったよ」
雑談以外はボーっと過ごしいるからテストもクラスの上から一桁にギリギリだ。
親からすれば異存はない成績らしい。
家に着いても誰もいない。
心地よくて堪らない。
ネ友たちと通話をする。
今日居るのは陸人さんと浩介さんに裕翔さんか。
いつものメンバーだ。
「おー、ゆずさーん。 ちゃす」
「あ、ゆずさんだ」
「あ!! 夜空!!! おかえりなさい」
高めののんびりした声。
少し低いあまり話したことないから印象が薄い。
聞き慣れた声、運命の囁き。 嬉しいのか声が高い。
「陸人さん、ただいま」
「いい加減呼び捨てにしてほしいな」
「陸人……?」
「なんで彼氏相手に疑問系なのww」
茶々を入れてくる裕翔さんは相変わらずだ。
これが僕の日常。
ピンポーンとインターフォンが鳴る。
壊れてく、音が剥がれていく。
忌々しい。
通話を抜けると玄関にかけてドアを開けた。
「母さん! おかえり」
「あら、夜空ありがとう」
かりそめの慣れきった日々。
幸せって不安定だ。
指からこぼれ落ちていく一握の砂。
耳の奥で「夜空!」と尻尾を振り出しそうな嬉しそうな陸人の声が反響した