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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SF(すこしふしぎ)な あれこれ。

ドジっこ

作者: 楪羽 聡

「ねぇ……挟まっちゃったの。助けてくださる?」


 タケナカは艶っぽい女の声を耳にして、キョロキョロとあたりを見回した。しかし、(ひる)()(なか)の往来には誰もいない。

「挟まったって……ドアか何かか?」

 それとも、どこかでテレビの音声が流れたのだろうか……そう考えて立ち去ろうとした時、また女の声がした。


「ドアじゃないわ。隙間よ」


 テレビじゃない、明らかに誰かに向けて発した言葉だ。

 タケナカは今度こそ、声の方角を突き止めた。古いビルとビルの間に、女の手がゆらゆらとうごめいているのが視界に入る。

 色の白い、ほっそりとしたしなやかな腕だった。その腕と指の揺れ動く様子にふっと引き込まれそうになるのを、タケナカは自覚した。


「助けてくださる?」


 顔は見えないが、相手は美女だと確信した。昂揚する本能がそう告げている。

 彼女を助けた後は、そのまま「はいさよなら」ということはないだろう。親切ごかしに世話をしてやれば、あるいは――そんな考えが彼の脳内に充満する。

「あんた、どんだけドジっ子だよ……」

 タケナカはにやつく頬を押さえつつ、ビルに向かって歩み寄る。


 しかし、ふと立ち留まった。

「……ビルの隙間?」


 確かに女の手はビルの隙間から伸びている。

 タケナカは以前、その隙間に猫が逃げ込んだのを見たことがあった。まだ小さい子猫で、大きな野良猫とおぼしき相手に追い掛けられていたのだ。

 その隙間に逃げ込んだ子猫を追い、野良猫は勢い込んで隙間に突進したが……


「猫でさえ入れなかった隙間に、何故人間の女が入れるんだ?」

 口に出してしまった途端、どっと冷や汗が湧いた。

「助けてくださらないの? お願い、こちらに来て……」

 ゆらゆらと動く腕は、悲しげな声を発する。


 次の瞬間、タケナカは弾かれたようにその場から逃げ出した。




 ひとりの男がビルの隙間に挟まって死んだ、という奇妙なニュースが地方紙のすみに載ったのは、その数日後だった。

 しかし、幅わずか十センチに満たない隙間に、その男がどうやって入ったのか――もしくは、入れられたのか――わかる者はいなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 短いのに怖い、映像が目に浮かぶようで、怖かったYO。 [一言] バカ番長の今井を思い出しました。
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