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いやーほんとはやりたくないんだけどなーしかたなくなー

「ほんっとにすまんかったぁ! この通りだ!」

「まぁまぁ、無事に戻って来たことだし、頭を上げてくれよオヤジさん」


 両手を拝むように合わせ、深々と頭を下げるドワーフの店主に、笑顔で応じるボジャン。他の三人も特に怒るような素振りも無い。

 彼らとしては、仙治が盗まれたと言う一報を聞いた後、どうしたものかと考えているうちに戻ってきていた、と言う状況だ。

 すでにナナミの手にある仙治から、何があったのか詳しい話も聞いた後である。


 ヒンデルがなぜ仙治の存在を知っていたかという話については、店主の方が既に調べていた。昨日、鍛冶場に居た下働きの子ドワーフの一人が、店主の叫び声を聞いて古代文明の遺産があることを知り、それをヒンデルに漏らしたということだった。

 バスダの町で有数の商人であるヒンデルが、そういったレアな物品を求めていることはかなり有名な話で、その子ドワーフとしても買い取りの交渉でも来るだろうと思っていたところで、まさかの盗難騒ぎだ。

 さすがに盗まれることになるとは考えていなかったとはいえ、客から預かった物の扱いとしてはいささか問題があった。


「小僧はもうしっかりと叱りつけておいたから、そっちはあんまり責めないでやってくれるか」

「お、おう……そっちも別に気にしてないからさ」


 頭一つ身長が伸びるくらいのデカイたんこぶをつけた子ドワーフが一人、店の奥で忙しそうに走り回っているのを見て四人は苦笑する。


「弟子のしたこととはいえ、俺の監督不行き届きが原因だ。今回の御代は頂けないな」

「そうはいっても、これだけの装備揃えたんだから結構な金額だぜ? さすがに悪いって」

「その代わり、またこの町に戻ってきた時にはうちを使ってくれ。きちんと弟子の教育は済ませておくからよ」

「わかったよ、そんときはまたよろしくな」


 それぞれに新たな装備を受け取った四人は、ひとまず宿に戻って装備の最終調整をすることにした。普通なら店で済ませてしまえばいいのだが、問題はナナミ、というか仙治だった。

 定宿で仲間と別れ、ナナミは自分の部屋に戻る。

 そこは冒険者が集まる安い宿で、木造二階建てに一人用の個室が全部で十個ほど並んでいる。部屋自体は寝るためだけにあると言っても良い代物で、置かれているのは硬いベッドただ一つ、それだけで部屋をほとんど埋めている。


「金に余裕が出来たんだから、もうちょっと良い宿に泊まりたいよな」

「あまり無駄遣いは出来ない。今回はあくまで運が良かっただけ。私たちの実力では、今後とも同じだけの稼ぎが続くとは限らない」


 淡々とした口調で応えたナナミは、ベッドに腰かけると軽く呼吸を整える。

 そして、手元の仙治を見下ろして、内側の身体に当たる部分に貼られた革をそっと撫でた。

 仙治が憑依している鉄の胸当ては、外観からはわからないが内側に擬態した触手を備えた触装武具である。なんらかの刺激があった時、装備された時に自動的に触手が動き出してしまうのだ。

 そういうわけで今回、ドワーフの鍛冶屋には、革の肩紐などを取り替えるサイズ合わせのついでに、胸当てと身体の間にもう一枚、革の仕切りを入れてもらうように頼んでいたのだ。

 そうすることで触手に胸をもみくちゃにされるのを防ぐ、というのが狙いなわけだが、実際に遮れるかどうかは試してみないとわからない。


「すーはー……よし、着けるわ」

「どんとこい」


 気合を入れ、思い切って自分の胸に胸当てを合わせるナナミ。

 同時に、仙治の触手がざわざわと蠢き始めた。


「っ……」


 だが、厚めの革を間に挟んでいるおかげか、ナナミはほとんど刺激を感じなかった。


「うん……大丈夫そう。たまに振動を感じるくらい」

「俺の方もちょっとコントロールの仕方がわかってきた」


 先日の長時間触手使用のおかげか、仙治も自分の感覚で触手をある程度、操れるようになりつつあった。完全に止めることはまだ出来ないが、動きをかなり制限出来ている。


「これなら普段から装備しておける」

「よし、これからナナミの胸は俺がしっかり守ってやるぞ」

「……何も間違っていないけど、なんか嫌」


 ナナミはそのまま仙治を着けた状態で、革紐や留め具などの確認を行う。鍛冶屋で身体に合わせてもらったとはいえ、やはりどうしても微妙なズレは残ってしまうので、その調整だ。使い続けているうちに出てくる歪みなども、その都度直していかなければならない。

 冒険者にとって防具は自分の身を守る最後の砦だ。些細なズレでもいざというとき、生死を分ける原因になりかねない。


「……うん」


 身体を捻ったりして確かめつつ、納得のいくポジションに収まったのか、ナナミが一つ頷く。

 すると仙治がうきうきと弾む声で、


「それじゃあ、こっちのほうも試しておくか」

「……優しく、お願い」


 俯いて真っ赤な顔でそれだけ言って、ナナミはぎゅっと目をつぶる。

 現在持っているギフトの受け渡しを行うためだ。

 これまでのことでわかっていることとして<付与か略奪か>を行うとき、必ず触手は激しく動くことになる。それについては本人にも制御のしようが無かった。


(触手を大人しくすることは上手くいったが、激しくするのも出来るか)


 仙治がそう考えた途端、それまでゆっくりざわざわと動いているだけだった触手が、一斉にのたうつように動き出した。


「ひあっ!? そんな急に……あんっ!」


 革越しにも刺激を感じるほどの強い動きに、思わずナナミは胸当てを外そうとするが、留め具へと伸ばした手を、胸当てと革の隙間から伸びてきた触手が遮って邪魔をしてくる。

 そればかりか、伸びた触手は服の隙間にまで入り込んでナナミの胸を直接揉みしだき始めた。


「ちょっと……センジ!? ひゃんっ!? やめっ……ふぁあああっ!?」

「おおぉ……やっぱ良いな……」


 思えばこの世界で目覚めてからこっち……トロル、おっさん、ババアとろくな相手の胸を揉んでいない。

 唯一、純粋に楽しめたおっぱいが今のところ、ナナミだけと言える。


(ババアの二度目は不覚にもちょっと興奮してしまったが……あれは幻惑魔法で騙されたようなものだからノーカンだ!)


「んあっ……! ふ、ふーっ、ふーっ、ふーっ!」


 思わず仰け反り、ベッドに倒れ込んだナナミは、シーツを噛んで声を出すのを堪える。ここは安宿だけあって、あまり大きな声を出すと隣に聞こえてしまう恐れがあった。


(名残惜しいが、早く済ませるか)


『付与か略奪か

 <give> or <rob>』

(give)

『どのギフトを与えるか選択してください』

(<幻惑魔法Ⅰ>)


 事前に話をしてあったギフトを選ぶとすぐ、ナナミの胸に絡みついていた触手から、小さな針が飛び出す。それはあまり大きなものではないが、普通に刺されれば痛みを感じる程度のものだ。

 しかし、触装武具の触手によるマッサージは、痛覚を麻痺させる効果があった。

 触手表面からごく微量ながら媚薬成分が分泌され塗りたくられているのだ。装備者の身体を火照らせ、性的興奮を起こさせる効果も当然の如くある。

 触手から飛び出した無数の針に打たれ、ナナミは痛みよりも強い快感に襲われる。


「――う゛う゛ううぅぅぅ~~っ!?」


『付与成功:<幻惑魔法Ⅰ>を与えました』


 ブリッジする程の勢いで背を逸らせ強張ったナナミの身体から、ゆるゆると力が抜けて行く。

 しゃくりあげるような呼吸で、しばらく動けなかったナナミだが数分ほどしてゆっくりと起き上がると胸当てを外した。

 そして力の入っていない拳でぽすぽすと革を張った胸当ての裏面を叩く。


「あー、その……大丈夫か?」

「……前の時よりも……感覚が強かった」

「触手が前よりも良く伸びるし動きも良くなったのかもな。今後ともランクアップしていけば、もっと上達するかもしれないぞ」

「か、身体がもたない……」

「あー……ところでだな?」


 絶句するナナミに、仙治は申し訳なさそうな声音で問いかける。


「今のは幻惑魔法を与えただけで、付与と略奪を一緒には出来ないみたいなんだ。だから、怪力を奪るならもう一回――」

「また今度にして」

「ですよねー」


 グリンドとの戦いでは、魔法使いであるナナミが<怪力>を持っていたことで運よく勝つことが出来たが、そんな一発芸がいつも通用するとは限らない。

 順当に前衛である剣士のリリカに怪力を渡した方が良いだろうと、相談したうえでの判断だった。

 盗賊の男からギフトを略奪出来たことから、女性だけでなく男性にも渡すことが出来そうである、ということは一応伝えたが、ボジャンとモックは断固として断り、仙治もそれを受け入れた。ただし、リリカとナナミの冷たい視線を受け、大きな問題が起きた時のための最終手段ということに決まった。


「……はぁ、遅くなってしまった。行こう」


 ようやく落ち着いてきたナナミは、しかし立ち上がるとすぐに動きを止めた。


「どうした? みんなのところに行くんじゃないのか? って、うわ、おい、なに!?」


 真っ赤な顔で眉根を寄せたナナミは、仙治をベッドに投げ込むとシーツでぐるぐる巻きにした。

 突然、視界を遮られた仙治は、ごそごそと着替えるような衣擦れの音に気付いて大人しく待つことにした。


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