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恐るべきモンスターの正体

 その日は治療が終わったばかりということもあり、坑道ダンジョンへの挑戦はせず、町の周辺に現れるモンスターを狩ろうということで四人プラス一個のパーティは出かけていた。


 バスダの町は北に山脈、南に平野を望む、大森林地帯のただ中にある。山から流れる複数の川の合流地点に、鉄鋼加工の施設を中心として築かれていた。

 そして北の山脈の裾に、昨日仙治が目覚め、四人と出会ったダンジョンへの入り口がある。町からは北に徒歩で数十分ほどの距離で、町とは馬車や川を使った水運で行き来が出来るようになっている。


 町の周辺は冒険者だけでなく、自警団なども見回ることで安全が保たれており、予想外の異常事態でも起きない限りは、モンスターなどはほとんど現れない。

 警邏の範囲から出たところで現れるのは、人間の生活圏に近づけば狩られるということを知らない、小型獣などの弱いモンスターだけ……のはずだった。


「うわあああ!?」


 不意に微かな悲鳴が聞こえてきたのは、町を出たばかりの森の中だった。

 声の出どころはかなり遠く、声もかろうじて聴こえた程度。四人は顔を見合わせると、足早にそちらへ向かった。


「何か起きたのか?」


 どんな事態が起きているのか、まったく想像もつかず仙治はナナミに訊ねた。現在、仙治はナナミの鞄の中に納まっている。


「わからない。町の人はあまり外には出ないはずだから、狩人か同業者あたりだと思う」

「冒険者が悲鳴を上げるようなことって……」

「昨日の私たちみたいな状況」


 モンスターの奇襲、予想外の強敵。

 それらは人里から遠く離れた土地やダンジョンの中ならいざ知らず、このような場所では滅多に出くわさないはずのものだ。


 ゲームのフィールドマップとして森林はごく一般的と言える。しかし普通は森の中でもある程度開けた、行動しやすい場所だけがプレイヤーの歩き回れる範囲として設定されているのが常だ。鬱蒼と生い茂る森の中というのは、基本的には侵入不可となっている。

 ラブラディア伝説も同様に、樹木の多い場所はプレイヤーの立ち入れないエリアだ。


 それはマップを無制限に広くできないという容量の都合以上に、進路を限定するという意味がある。つまり、舗装された道を歩いて進むとイベントが起きるのと同じで、森の中というシチュエーションを表現しつつも、プレイヤーが迷子にならないように道はきちんと作られているということなのだ。


 しかし、現実の森林に侵入を妨げる見えない壁は当然存在しない。

 いざ森の中に入ると樹木に視界を遮られるために先が見通せず、イベント発生地点へと誘導してくれるヒントも無い。


 そうなると自然、やることは決まってくる。

 声が聞こえてきた方角に進みながら、四人はお互いがはぐれないように見える距離で散開し、手分けしてそれぞれの方角を捜索し始めた。

 昨日のような奇襲による各個撃破の危険もあるが、のんびり時間を掛けているわけにはいかない。悲鳴の主がまだ無事はわからないが、急げば助けられる可能性はある。


「きゃあっ……!?」


 不意にリリカの声が森に響いた。問題の相手に最初に遭遇したのは彼女だった。


「このっ……!」


 切羽詰まったリリカの声に、三人は急いで駆けつける。


「あれれぇ? 仲間がいたのぉ?」


 大きな樹の幹に押し付けられるように細剣で鍔迫り合いをするリリカ。

 対する敵はこちらも細身だが妙に曲がりくねった形状の剣をリリカに向けて押し付けるようにしている。少女……のように見えたが、よく見るとその額には小さな角が生えており、背中には小さいが黒い蝙蝠のような翼もある。


 そして二人から少し離れた地面に、男性が一人転がっていた。四人からは良く見えなかったが、目立った外傷は無い。


「女性型モンスターがなんでこんなところにいんのよ!?」


 服装はこの場所に全くそぐわないような、フリフリのレースがたっぷりあしらわれた豪奢なワンピース。仙治の知る言葉で言えば、ゴスロリに近い白黒の衣装だ。

 人間であれば一〇代くらいの見た目だが、コルセットで強調された胸はかなりの大きさを誇っている。


「モンスターぁ? そういう呼び方はちょっと傷ついちゃうわぁ。ほんと人間って相手のこと考えない自分勝手な生き物だよねぇ」


 けらけらと笑いながら、片手で涙を拭うような素振りをして見せる少女。その間ももう一方の手だけで樹の幹にリリカを押さえ付け続けている。


「リリカ!!」


 ボジャンが横合いから少女に向けて剣を突き込む。だが、相手はふわりと浮くようなステップで数メートルほどを跳躍し、距離を取った。


「大丈夫か?」

「どうってことないわ。ちょっとびっくりしただけ」


 モック、ボジャン、リリカの三人が剣を構えて三方から取り囲みつつ、少し離れた位置でナナミが氷の魔法を杖に纏わせ、いつでも放てるように準備する。


「んふふふ、囲まれちゃったぁ。こわーい」


 少女は笑顔を崩さないまま、わざとらしく甘えたような声で言いながら、四人を見渡す。その余裕綽々の態度が自信から来るものであることを彼らは理解していた。女性型モンスターは強い。それがこの世界における常識である。


 ただ唯一、仙治だけは少女を強敵ではなく獲物として捉えていた。それはラブラディア伝説プレイヤーであれば当然ともいえる。

 ボスクラスの設定をされているだけあって強いのは確かだが、それ以上に女性型モンスターといえば攻略のご褒美という認識だ。


(あのおっぱいはすごいな……ナナミより二回り位でかいんじゃないか)


 エロゲー視点の観察をしながら、思わず触手をざわつかせる仙治。

 しかも、今の彼にとって強いモンスターは強いギフトを奪えるターゲットでもある。


(そうだ、ギフトを奪うためには胸を触手攻めしなければいけない。これは仕様であって俺の意思とは無関係だ。しょうがないよな、うん、しょうがない)


 誰に対するものかわからない言い訳をしつつ、少女の観察を続ける。


(あの角と羽……悪魔種か。でもあんな服じゃなくて、もっとボンデージみたいな格好だったはずだけど、そのへんはゲームとは違うのか)


 人間の格好もゲームとこの世界とでは変化している。現実的なものになると同時に個性の違いも出ていた。

 ゲームでは同じ種類のモンスターは、ユニークキャラでもない限り全員が同じ格好だったが、現実であればそれは不自然とも言える。


(しかし……ピンチだよなこれ。ボスモンスターと正面から戦えるほど、この四人のレベルが高いとは思えない)


 ゲームのプレイヤーキャラにとってもボス扱いされるような女性型モンスターの相手はこのパーティには務まらないだろう。

 奇襲だったとはいえトロル一匹に壊滅しかけたばかりだ。


「……ふぅん、魔法が使えるのはそこの一人だけね?」


 仙治が少女を観察している間、少女の方も四人の観察をしていた。見透かすような視線を受けて、ナナミはぞくりと寒気を感じる。

 慌てて前衛の三人が包囲を狭めようとするが、


「なっ!? 飛んだ!?」


 少女は何の前触れもなく飛びあがると、近くの木の幹を蹴ってボジャンの頭上を越え、さらに別の枝を足場に空中からナナミに向かい、曲がりくねった剣を振り上げて飛びかかった。

 ナナミは逃げようにも足が竦んでしまっている。


「避けるな! 魔法を撃て!」


 不意の仙治の叫びに、びくりと驚くナナミ。だが、そのおかげか震えていた足が動く。

 だが、今からでは回避は間に合わないのは明白だった。仙治の言葉に従い、少女に向けて魔法を放つ。

 空中にいる少女は回避など出来ず、真正面からナナミの氷の礫を喰らう。


「きゃんっ! つめたぁい!」


 だが、直撃した氷の礫は少女の顔や身体にぶつかるとあっさり霧散した。トロルのように凍りかけることすらない。


(構わない、どうせ目くらましだ。本命は……)

「突っ込め!」

「っ!? ああぁっ!!」


 魔法がまったく効かないような相手に、魔法使いが突っ込んでいくという無謀な行為のために、ナナミは自分を奮い立たせるように吶喊する。そして、前に大きく踏み込むと、身体ごとぶつかりに行った。


「なに!?」


 自分から近づいてくるとは思っていなかった少女は、剣を振り下ろすのが遅れてしまう。

 ナナミががむしゃらに突き出した両手に、少女は飛び掛かった勢いのままぶつかっていった。

 普通ならただの人間の女、それも基本的に身体を鍛えていない魔法使いの物理攻撃など、モンスターに通用するものではない。

 だが、今のナナミには<怪力>のギフトがある。


「――が、はっ!?」


 無造作に胴体を突き飛ばされた少女は、ぽーんと軽く数メートルを弾き飛ばされ、樹の幹に激しい音を立ててぶつかった。

 それだけの力を発揮したナナミの方も、力の反動を受け流しきれず反対に地面をごろごろと転がる。


「今のうちに! って……あれ?」


 木の根元に倒れた少女に追撃しようとボジャンが駆け寄り、しかし困惑しながらその手を止める。

 彼が見下ろしていたのは、ゴスロリ服を着た老婆の姿だった。


「あだだだだっ……こ、腰がぁっ……!」


 地面に倒れてぴくぴくと痙攣している老婆の頭には角、背には蝙蝠の羽があった。少女と同一人物ならぬ同一モンスターなのは間違いなかった。


「く、くそぅ! なんなんだいあんたのバカ力は! 魔法使いなんじゃなふががふが!」


 起き上がって近づいてきたナナミに向かって悪態をつこうとするが、途中で入れ歯がずれて飛び出しかける。


「何見てるんだい! 老人が苦しんでるんだから助け起こすのが筋ってもんじゃないのか! 親にどんな教育されて来たんだい!?」


 呆気にとられる四人に、立ち上がることも出来ない老婆はとにかくやかましく叫びまくる。


「……なあ、これってチャンスじゃないか?」

「なにが?」

「センジお望みの女性型モンスターの胸を揉みしだくチャンスだ」


 ナナミの鞄からボジャンが仙治を取り出し、そのまま老婆に近づけて行く。


「お、おい、ちょっと待て……確かに女性型モンスターかもしれないが俺の希望とはちょっとだいぶかなり違うというか……」

「パーティのためには、ギフトを奪う必要があるんだろ? 俺達のために頑張ってくれ」


 胸当てをつけやすいように、モックが老婆の両腕を抑えて胸をボジャンに向ける。改めて突き出された胸は、サイズ自体は若い姿の時と変わっていないようだった。が、コルセットの締め付けがあっても明らかに垂れさがっており、引っ張られた襟元からはしわくちゃの肌が覗いている。


「話せばわかる! 頼む! やめてくれ……やめろぉ!」

「なんだいその喋る胸当ては? き、気持ち悪いね! あたしに何をしようっていうんだい!? ちょっと、やめとくれよ!!」


 二人の叫びも空しく、容赦なく押し当てられた胸当ての裏で触手が自律的に動き出す。トロルの時と同じように、伸びた触手が老婆の胸を中心に上半身へと伸び、布越しにもぞもぞとまさぐっていく。


「ああっ!? ひ、やめ……!? んんっ!!」

『付与か略奪か

 <give> or <rob>』

(……rob)

『どのギフトを奪うか選択してください』

(全部)


 仙治は老婆の喘ぎ声と蠢く触手から伝わってくる感触をなるべく無心でやりすごしつつ、ウインドウを操作していく。


『略奪成功:<怪力><跳躍><幻惑魔法Ⅰ>を獲得

 略奪失敗:<長寿Ⅲ><吸精Ⅲ><幻惑魔法Ⅱ>はランク不足により略奪できませんでした』


 燃え尽きた気分でウインドウの結果表示を眺める仙治。ランク不足や失敗という新たな発見も今の彼にはどうでもいいことだった。


「……終わったのか?」


 伸びていた触手が戻るのを確認して、仙治を老婆から剥がすボジャン。

 触手に与えられる刺激で思わず身をよじった老婆は腰の激痛に耐えきれず途中から白目を剥いて気を失っていた。


「どうなったんだ?」

「……かなり強力なギフトを持ってたみたいで、今の俺だと奪い切れないみたいだ」

「じゃあ、まだこのモンスターにはギフトが残ってるってことか?」

「そうなるなぁ」

「ふうむ、きっちり殺しておくか」

「こんなしわくちゃでも女性型モンスターでしょ? 生きたまま捕らえれば高く売れるんじゃない?」

「えぇ? ……まぁ、一応、冒険者ギルドに連れて行くか」


 老婆をロープで縛りあげた後、倒れていた男性と一緒に担いで一行は町に戻った。




 冒険者ギルドへ老婆を引き渡すと、結構な額の賞金を貰うことができた。

 女性型モンスターの中でも強力な個体であり、『相当な昔から』人々に被害が出ていたため、二つ名もつけられて手配されていたということで、褒賞がかけられていたのだ。


 それからついでに助け出した男性は、森で動物や野草を採って生計を立てている狩人だった。酷く衰弱していたものの外傷はなく、ほどなくして無事に目を覚ました。


「森で動物を狩っていたら、いきなり巨乳の女性型モンスターに襲われて……その、見た目は少女なんだが恐ろしくテクニシャンだったんだよ。おっぱいもでかかったし。昇天しそうなほど気持ちよくされてる間に身体から力が抜けて行って意識が無くなったんだが……もう一度会えないかなぁ?」

「そ、その……なんだ。今度は本当に昇天しかねないから、やめといたほうがいいんじゃないか?」


 うっとりとした表情で語る狩人の男に、誰も真実を告げることは出来ず、一応の警告だけをしてその場を去ったのだった。


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