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センジが 仲間にくわわった!

「ぐ、ぐぐぐぐぐ……っ!」

「……はぁ」


 歯を食いしばり真っ赤な顔で唸るモックと気の抜けた表情で溜息を吐くナナミ。

 二人は小さなテーブルをはさんで向かい合い、互いの右手を握り肘をテーブルについていた。つまりは腕相撲の体勢だ。

 二人の手は傾かず中心で止まっているのだが、明らかにモックは思い切り力を込めていた。

 力み続けるのにも限度はあり、息を吸うために力を緩めたところでナナミが手に力を籠めると、一瞬にして勝負がついた。


「く……また負けた」

「……これで満足した?」

「あ、あと一回……!」

「もう許して……これで十回目」


 眼鏡を掛け直しながら、さすがにうんざりした表情で呻くように言うナナミ。

 大柄の戦士であるモックが、魔法使いであるナナミに腕相撲で十戦全敗。

 その様子を見ていたボジャンは苦笑しながらモックの肩を叩く。


「確かにナナミがトロル並みの怪力になってるな。こんだけのバカ力なら、俺たちを担いで坑道から出ることも出来るか」

「それだけじゃなくて、坑道のモンスターも蹴散らしたんでしょ?」

「出会ったのがラージモールくらいだったから、運が良かった」

「ところで……あー、センジって言ったか?」

「おう」


 鉄の胸当て……触装武具と言われる特殊装備へと憑依してしまった仙治は、四人の冒険者たち、モック、ボジャン、リリカ、そしてナナミと共にバスダの町の宿に居た。

 そこは冒険者の集まる安宿で、たくさんの一人部屋が並んでいる。部屋にはベッドと小さなテーブルと椅子が一つずつ置かれているきりで、まさに寝泊まりするだけのスペースしかない。

 現代日本人の仙治から見ると、格安ビジネスホテルという言葉がイメージにぴったり合うところだ。


 胸当て、つまり防具が喋るという一種異様な光景に、しかし、四人はわりとすぐに順応していた。

 この世界では無機物が命を持ってモンスターとなることもあるため、こういうこともあるのか、といった程度の認識だった。


 坑道ダンジョンの中でナナミ以外の三人が死にかけてから、一日が過ぎた。町の治療院に担ぎ込んだ三人の治療が無事に終わり、目覚めた彼らにナナミと仙治から事情を説明したところだった。


「ナナミのこの怪力はずっとこのままなのか?」

「いや、もう一度ギフトを奪えばいいはずだ」


 その場にいる全員の視線を受けたナナミは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。


「……そのうち」

「あんな触手が胸に当たるのはイヤよねぇ……」

「当たるだけじゃなくて、動きが、その」


 歯切れの悪いナナミの言葉に、ボジャンがニヤニヤ笑いを浮かべる。


「おいおいセンジ、うちの仲間の胸になにしてくれちゃってんの」

「俺の意思とは関係ないんだが……その、すまん」


 確かに触手は仙治の意思とは無関係に動くのだが、その触覚はきちんと働いていた。服の上からとはいえナナミの胸をたっぷりと揉みしだいた時の感触もちゃっかり感じていたがそのことは口には出さない。


「このパーティで俺を使ってくれないか。店の棚で埃を被るのは嫌なんだ」

「そこはナナミ次第じゃないか?」


 まだ少し上気した顔で、ナナミは少し考える素振りをする。そしてそっぽを向いたまま、「……使っても良い」と短く答える。


「ギフトを得られるのは、とても有用。そう簡単に出来ることではない」

「確かに、ギフトってのは相当な努力か幸運でもなきゃ増えることは無いもんだ。その代償が胸を揉まれることなら、安いもんだよな?」

「……そういうならボジャンも揉まれてみるといい」

「いやいや、女性用なんだろ? さすがに男には効果ないよな……?」

「……さあ、俺にもよくわからん」


 恐る恐るといった顔で尋ねるボジャンに、仙治は正直に答える。ボジャンとモックが顔を見合わせ嫌な空気が流れた。


「……なにはともあれだ! これからよろしくなセンジ!」

「あ、ああ! よろしく頼む。ただ、今はトロルのギフトしか持ってないからさ。まずは誰かからギフトを奪わないと」

「って言っても、素直に奪わせてくれるやつなんて居ないよな」

「ひとまず狙うとしたらモンスターだろうな。……出来ればトロルとかじゃなくて、女性型モンスターだと助かるんだが」

「はっはっは、贅沢言うねぇセンジ。女性型モンスターなんて大半がダンジョンの奥とか魔族の支配地域に引っ込んでるぜ」


 そこそこ真面目なトーンで呟いた仙治に対して、ボジャンは面白いジョークを聞いたかのように大笑いする。


「連中、人間と同じかそれ以上に頭が良い上に、強力なギフトを持ってることが多いからな。他のモンスターや魔族を従えてるって話だぜ」

「駆け出し冒険者は縁の無い相手ね」


 仙治の記憶にあるラブラディア伝説の内容でも、女性型モンスターは基本的にはダンジョンボスやイベントボスなどの特殊なポジションとなっていることが多かった。

 ゲーム的な都合で言えば、女性型モンスターはプレイヤーにとっては、エッチなお愉しみのための攻略対象だ。ダンジョンやイベントクエストをこなしてようやく手に入る、ご褒美ということになる。

 だが、もちろんゲームではないこの世界では、そのようなシステム的都合は適用されない。

 この世界においては、女性型モンスターは文字通りの特別扱いをされているのだった。

 その理由となるのは、高いステータスや強力なギフト、もしくは護衛モンスターなどの存在だ。

 ボジャンたち四人は、まだまだ駆け出しの冒険者であり、実力も相応だ。彼らにはまだ、女性型モンスターは高嶺の花と言えた。


「でも、いつかお前に女性型モンスターの乳を揉ませてやれるくらいに、俺たちも強くなってやるからな。楽しみにしておけよ!」

「ああ、役に立てるように頑張って揉みまくるよ!」

「そんな理由で頑張りたくないんだけど……」


 女性陣二人の冷ややかな視線には気付かないフリで、ボジャンと仙治は意気投合するのだった。

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