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王族伯令嬢は出奔しました  作者: 緒丹治矩
最後の修行
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004話


「一言で申さば、お主の魔法や魔術は独創的に過ぎるのよ。特別を嫌う世の者らにとって、それは害悪にしか映らぬと言う事だ」


 腕を組んだししょーが何か遠くを見る様な表情で言い終わると、そのまま黙って目を瞑った。

 何だかしんみりとして来ちゃいましたよ!

 しかも他ならぬししょーがそう言うと、とっても説得力がある。

 ししょーも「特別」に強いヒトだからね。

 恐らく現役の頃は強すぎて、周りに疎ましく思われてたんじゃないのかな。

 だって自分が知ってる騎士と言う連中はチームプレイが定石なのに、ししょーの技は基本的に単騎で突っ込む事が前提の技が多い。

 それはつまり、常に単独であり、周りをアテにしないって事だ。

 後はもう、何をか言わんやだろう。

 そしてししょーが言う様に、ソレは確かに自分にも当て嵌まる。

 精霊魔法もどきの件を除いても、普通は理論から入る魔法技術を感覚から入ってる自分は色々と規格外だからね。

 例えばクーちゃんやピーちゃん(クーちゃんと同じ様なコで小鳥さんだ)と似た様な魔法を使うだけで大抵の魔法士はドン引きだし、それは実際に数少ない友人であるサラ(当然貴族の御令嬢)ですらそうなんだからシャレにならん。


「ふむ。なにやら珍しく、きちんと話を聞いておったようであるな」


 目を開けたものの、やや俯き加減のししょーが口を開いた。

 むう。

 普段ししょーの説教を聞き流してるのって、実は結構バレてるのかな?

 なんて、今はそんな事を考えている場合じゃ無いか。

 此処は師の言葉に対して、きちんと返答するのが弟子足る者の務めだ。


「えっと、とにかく、人前での魔法行使については真剣に自重する事にしますです、ハイ」


 しおらしく答えてみると、それを見たししょーがニヤりと笑みを浮かべた。


「うむっ、判れば宜しい! それではこれからリプロンに向かうぞっ。討伐士章はクリアしておるな?」


 あれっ?

 突然雰囲気が変わったししょーにちょっとビックリ。

 今までのしんみりとした空気はナンだったのでしょうか……。

 もしかしてワタシ、またししょーの小芝居に引っ掛かっちゃったワケですか?


「はぁ」


 溜め息を吐きつつ、それでも慌てて自分の討伐士章を取り出す。

 一番大事なコトなのに、今の今まで忘れてたわ。

 これで十級をクリアしてなかったら笑い者になっちゃう。

 速攻で裏面を見ると、九つの丸が綺麗に浮き出てて、ついでにその周囲を囲む輪郭線までがハッキリと浮き出てる事が確認出来た。

 カンストの証しだ。


「大丈夫。バッチリですっ」


 ホッとして討伐士章の裏側をししょーに見せながら、改めて見たこのブツの謎を思う。

 正しく謎のロストテクノロジーの塊って感じのこの討伐士章は、その大体三x二インチ(約8x5cm)の大きさの上半分ちょいを占める四角な部分に討伐ポイントと呼ばれる点数をどれだけ稼いだかが表示される。

 要するに、魔物の討伐数がカウントされるの。

 仕組みはさっぱり判らんけど。

 協会のアナウンスによると、ゴブ一匹が一Pポイントになるらしいので、良く「ゴブにして何匹」とか「何ポイント稼いだ」と言われるのはその為だ。

 また討伐士章は討伐級によって初級の十二級からゼロ級までの五種類の材質に分かれてて、十二~十が真鍮、九~七が青銅、六~四が銀、三~一が金、ゼロは黒石(良く知らん)で出来てる。

 コレがクセモノで、各材質の中の昇級ならそこらの支部でも出来るけど、材質を跨ぐ昇級は支局に行かないと出来ない。

 コレは一言で言えば「社会に認められないと昇級は許さないぞ」と言う話で、材質を跨ぐ昇級には必ず社会構成の上位者の書類と色々な手続きが必要なのだ。

 その上、この丸一つの重みが級に寄って断然違うと来た。

 見習いだとゴブ百匹分に当たる百Pで、見習い札(鉄製)がカンストして初級(12級)に上がれるものの、自分の持つ十級証だと、その四倍の四百P分の討伐を行わないとカンストしない。

 これは級が上がる毎にドンドン増えて行って、銀章となる六級に上がる為には七級証で千八百Pもの討伐を行わないとダメだ。

 更に酷い事に、このカウントは一年経つと元に戻っちゃうから、実質一年弱でその討伐数をやり遂げないと元の木阿弥と言う無理ゲーっぷりなのですよ。

 これは正直、かなりキツい数字だと思う。

 オークなら十Pだから百八十で済むけれど、ソレだってかなりの無理ゲーだしね。

 そもそもゴブだって立派な魔物だから、一般人より力も強けりゃ敏捷性だって高い。

 普通なら市街地に一匹出ただけでも大騒ぎだし、それがオークともなれば、並みの討伐士じゃ独りで相手取る事すら無理だ。

 たったの一年でそんな連中をそれだけの数討伐しないと成れない銀章討伐士がどんだけバケモノなのかが良く判る話だよね。

 ちなみに七級までならともかく、六級に上がる為には貴族の推薦が必要で、三位(三級からは級じゃなくて位と呼ばれる)に上がる為には王族の推薦が必要だから、銀章以上に級を上げる事はかなり難しい。

 でもそのお陰で、高位討伐士は世の中では一定の地位や官位を持つ人達と同様に扱われる。

 言っちゃえば六級の貴族推薦は騎士叙任と同様で、三位の王族推薦は勲爵と同様って事だ。

 そしてココに「討伐騎士」と言う得体の知れない存在が出てくる素地があるのですよ。

 つまり銀章の討伐士は「騎士の位を持ってるエラい士族と同等の地位や官位を持つ」とされて、実際に王侯貴族から騎士叙任を受けた騎士サマ達と同等か、それ以上の扱いを社会から受けちゃうのですよ。

 コレは身分至上主義の今の世の中では、数少ない横紙破りの手段だから凄い事だと言って良い。

 自分には当座あんまり関係無い話とは言え、憧れないと言ったら絶対にウソだよな。


「ふむ、大丈夫であるな。では参るぞっ。道々お主には言うておかねばならぬ事が山程ある!」


 何故か結構長い事こちらの討伐士章を見てたししょーが顔を上げてそう言うと、いきなり猛ダッシュで走り始めた。

 うおっとヤバい。

 でも今の言葉、もしかしなくてもこれから説教三昧ってコトですよね?

 ししょーの説教は割りとココロに刺さる事が多いので、出来れば勘弁して欲しいんですけど……。

 こちらも追って全力で走り出しながら、ワタシは難儀な道行みちゆきを思って心の中で溜め息を吐いた。



この辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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