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王族伯令嬢は出奔しました  作者: 緒丹治矩
出奔
21/33

021話


 目が覚めると、そこは可愛い生き物で溢れる天国だった。

 何故か寝てる自分の周りにクーちゃんが一杯居て、クーンと鳴いているんだから堪らない!

 うむうむ。

 苦しゅうないぞ、近こう寄れ。

 思わず一人(?)を抱き締めて頬ずりしちゃう。

 クーちゃんのモフモフした感触が気持ちイイ。

 こんな天国なら、何時でも大歓迎なんだけどなぁ。

 ……ん?

 天国?


「ちょっと待てやぁ!」


 異常な事態に気付いて飛び起き、改めて周囲を見回すと、見覚えのある光景にここが見知った自分の狩り小屋の中だと判った。

 ついでに脳裏に昨夜の激闘が浮かんでゲンナリ。


「……どうやら助かったみたいだね」


 寝起きのボーッとした頭で幸運に感謝する。

 ホントにギリギリの戦いだったもんなぁ、アレは……。


「「「「「クーン」」」」」


 しかし一旦は離れた大量のクーちゃん達がまたわらわらと寄って来て、殺し屋共の事が頭から消えた。

 可愛さ溢れる彼(彼女?)らに囲まれたら、シリアスな事なんてあっと言う間にお空の彼方だ。

 とは言え、このクーちゃんの数はどうした事なのでしょうか?

 このテは大昔に何度かあったような気がするけれど……。


「まあイイか」


 少なくとも、今のクーちゃんズに切羽詰った雰囲気は無い。

 だったら他に優先すべき事が色々ある。

 未だかつて無かったクーちゃん天国に未練を感じつつも、まだ良く動かない頭を何とか働かせてインベントリから懐中時計を出せば、日付は何とアレから丸々二日も経ってらっしゃった。


「二日も寝てたのかぁ。それはマジでシャレにならないわ」


 独り言を呟きながら溜め息。

 だとすれば、あの激闘は昨夜じゃなくて二日前と言う事になる。

 ハッと気が付いて、銃でブチ抜かれたお腹の辺りを触ると感触的には全く異常が無い。

 と言うより、酷い状態だった右腕が全く普通に動くし、痛みも全然無かった。

 ぬう。

 これはどうも治療&回復が完全に終わってる臭いですな。 


「うーむ……」



 あれだけの重症からたった二日で完全回復するなんて普通ならありえない。

 世では腕一本繋げるだけで一月は掛かるのだから、こんなのがバレたら大騒ぎになる様な話だ。

 でもオーガ戦の時もそうだった様に、自分ならやろうと思えば出来る。

(ししょーはドン引いてたけどさ)

 ずっと意識不明だったのなら、さぞかし遠慮会釈無く魔法を使い捲くってただろうし、ある意味当然の結果と言えるだろう。


「んん?」


 身体の回復具合にホッとしつつも、ちょっとした違和感を覚えてワタシは仕舞おうとした懐中時計をもう一度見直した。

 口に出せる程じゃ無いものの、目に入った光景に何かが引っ掛かるのだ。

 もしかしたら、激闘のせいで時計が壊れちゃったのかも知れない。

 魔石駆動の魔導具であるこの時計は一ヶ月に一刻(一時間)程度しか時間がずれない優れモノで、実母サマの遺品の一つだったから有り難く貰って使ってるのですよ。

 似た物を新しく買ったらバカ高いので、壊れるのは勘弁して欲しい。


「んんー?」


 しかし唸りながらじっくりと見直しても、時計自体に別段問題は発見出来ない。

 何かがヘンなのは間違い無いのに、一体全体どうした事なんだろう?

 ボーっとした頭で暫く懐中時計を弄繰り回していると、漸くその違和感の正体が浮かんで来た。


「この時計、こんなにデカかったか?」


 と言うより、この指と言うか、この手はなんだ!?

 速攻で時計をインベントリに放り込み、両手を揃えてじっと見る。

 正直言って自分の手は女にしてはゴツいしデカい。

 長年の鍛錬の賜物なのに周囲には不評で、サラなんかボロクソに言う位だ。

 そんな自慢のゴツい右手が、いや左手も揃って、白魚の様な指の華奢なおててになってた。

 目を擦ってもう一度良く両手を見ても、可愛らしいおてては変わらない。


「マジか、これ!」


 一瞬で脳が覚醒し、その場で立ち上がって自分の身体を見た。

 何だか小さくなってる気がする……。

 改めて気が付けば血塗れの皮鎧も胸当てもブカブカで、それどころか、ズボンのすそを踏んづけてる事に気が付いて呆然とした。

 まさか!?

 ワタシは速攻でその場で着てる物を全部脱いだ。


「なっなっ、ない! 唯でさえささやかだったワタシのお胸サマが無いぃぃぃ!」


 思わず絶叫!

 いや一応、全く無いワケでは無いんだけども、何と言うか学園生(10~12歳位)並みの異様に可愛らしいモノに変貌してらっしゃった。


「ウソでしょ……」


 がっくりと力尽きそうになるのを何とか堪えて、脱ぎ捨てた外套のポケットを漁る。

 そして外套に入れてた幾つかのストレージ魔導具の中から生活用具を入れて来たブツを引っ張り出し、そこから姿見の鏡を出して壁に立てかけた。

 そう。まずは確認する事が肝要だ。

 それが目下の最大重要事項だ。

 目を瞑って姿見の前に立つ。

 正直かなり恐かったが、女は度胸! と思って目を開けた。


「うはぁ」


 すると鏡の中には、見た事も無い妖精の様な黒髪の美少女がいた。

 いや見た事も無いと言うより、良く見ると顔の各パーツ類は確かに自分ではある。

 でも筋肉とか根性とか気合とか、そう言った物が全て削げ落ちた繊細かつ儚げな姿は、マッチョとは言わないまでも、筋肉の鎧を着てたついこの前までの自分とは全くの別人に見えた。


「凄いわ。ワタシって脳筋バカになって無かったら、こんな美少女になってたのか」


 思わず声が出た。

 いや、だって本当なんですよ。

 何処の御伽噺の妖精姫サマかよと思う程の凄い美少女!

 まあ実母サマがスンゴい美女だったので、こんなのが生まれても不思議じゃ無いとは思うけれど、元がアレだったからなぁ……。

 そりゃ、父上も嘆くわ。


「いや、そーじゃなくて!」


 何時の間にやら見入ってた鏡の姿から目を離して考える。

 問題はこの身体だ。

 身長は確実に五フィート(約152cm)を切ってる様だし、どう見てもこの体格は十二、三歳女子。

 これが本当なら色々とシャレにならない。

 ワタシは暫くの間、身体中を触り捲くったりして自分の今の姿の確認に没頭した。

 だけど何処をどう確認しようとも、鏡に映った姿が今の自分の形で間違い無い事を思い知らされるだけで、最後にはマッパなままで床に座り込んだ。


「こりゃ、本気でシャレになんないわ」


 何で肉体が変貌するんだ!?

 有り得無いだろ、そんなの!

 頭の中で色んな考えがグルグル回って眩暈がする。

 床に両手を付いて突っ伏すと、心配したのかクーちゃんズがわらわらと縋り付いて来た。

 あー、マズいマズいマズい。

 ちょっと落ち着かないと。

 そうそう。こう言う時は呼吸に意識を集中して深呼吸だ!


「スーハースーハー……」


 腰に両手を当てながら両足を広げて突っ立ち、深呼吸を繰り返して何とか落ち着きを取り戻す。

 うんうん、この調子だ。

 脳筋には脳筋の落ち着き方があるんだよな。

 落ち着いた所で、さっきの生活用具ストレージから着られそうな服や下着を出して色々と試してみる。

 幾ら季節が初夏でも、何時までもマッパなのはさすがにナンだからね。

 まずは紐結びのパンツを穿いて、裾を折り捲くったズボンを穿く。

 もう胸は下着も込みでサラシだ。

 それしか無いしね。トホホ。

 サラシを巻いた上に何とか着られそうなシャツを着て、ワタシは漸くホッと一息ついて座り込んだ。


「多分、原因はアレなんだろうな……」


 独り言を呟いて再びこの姿について考える。

 無論、そのアレとは魔力症だ。

 こんなケース、全く見た事も聞いた事も無いけれど、ソレ以外には考えられない。

 治療&回復の術式が発動してる中、魔法力が暴走して身体が作り変えられちゃったと考えるのが、多分今の所は一番真実に近いと思う。

 何しろ本来魔力症と言うヤツは成長阻害やら何やら、肉体にも影響が大きいのだ。

 自分は尻尾のお陰でそれらを回避出来てたものの、酷いのになると突然身体が燃え上がって死んだりするケースまであると聞くからね。

 魔法医でも研究者でも無いから詳しい事は判らないけれど、こんなケースだって魔法大学院に潜り込んで調べれば似た様な先例を探す事は出来るかも知れない。


「となれば、知識が無い現状じゃ考えるだけ無駄か」


 立ち上がって全身を様々に動かし、今の身体に何の不自由も無い事を確認してワタシは一つの結論を出した。

 そもそもこんな超展開、乏しい今の知識で考えても意味が無い。

 何か新しい情報が出て来るまでは、この「魔力症らしい」と言った程度で納得しておく方が精神的にも良い筈だ。


「そうなると、次は最初のヤツになるんだけど……」


 未だに纏わり付いて来るクーちゃんズに視点を移す。

 数えてみれば、なんと二十人(?)もいらっしゃる。

 最初から考えない様に避けてたものの、大昔にも同じ様な事が何度かあったこの現象は原因が良く判ってるのですよ。

 それは自分が制御出来ていない魔法力をクーちゃんが何人(?)も実体化する事でカバーしてくれてるって事だ。

 基本的に状況に流される事しか出来無い精霊は、自分から何かをしようと思ったら実体化する必要がある。

 でも実体化しちゃうと操れる魔法力に限度が出来ちゃうので、大きな魔法力を扱うには何人(?)も同時に実体化しないとダメなんだよね。


「とは言え、この数はちょっとハンパじゃないわ」


 だって今までは多くてもせいぜい五人(?)だったのに、それが二十人(?)ともなれば、単純計算で今の自分の魔法力は四倍に増えた計算になっちゃう。

 幼女化は今のところ実害が無い様だから放っておけても、こっちは即座の対応を考えなきゃいけない。

 もし本当に魔法力が増えてた場合、真剣に対策を考えないとヤバいからだ。

 顔真っ青になりながらも、とにかく今の魔法力を調べようとインベントリから簡易測定用の水晶玉と専用魔法陣の入った布を取り出す。

 それらを目の前にセットして、取り敢えず起動だ。


「ゲッ!」


 術式を起動すると、明り取りの小窓しかないこの狩り小屋の中が眩いばかりの緑色の光で満たされて超ビックリ!

 呆然としながら即座に術式を停止して、再度座り込む。

 尻尾無しで緑級と言う事は、有りならその上の青級(恐らく青緑級)で確定だ。

 これは間違い無く詰んだと言って良い。

 何故ならもしこの状況でクーちゃんズが実体化を解いた場合、自分は即座に三歳時のあの寝込み状態に突入しちゃうんだからね。


「はぁぁぁ」


 魂が抜け出ちゃうような溜め息が出た。

 十二歳位に変身した上に、増大した魔法力のせいで更なる魔力症に苦しむなんて、ワタシの人生ってどれだけヘヴィなんだろう。

 幾ら自分が普通からちょっと離れた生活を送ってると言っても、こんな超展開にはホイホイ付いて行けないよ……。



この辺りで終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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