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王族伯令嬢は出奔しました  作者: 緒丹治矩
最後の修行
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002話


 ゴブと違ってオークの死体は売れるんだよね。

 だから普通は処理に結構気を使うんだけど、ワタシの場合は結構ラクだ。

 まずは六百ポンド(約270kg)近いデカいオークの死体を次々にホイホイっと並べて行く。

 そして何時もの様に、頭の中に入ってるソレ用の魔法陣をそれぞれのオークの死体の上に想い浮かべて起動する。

 コレで終わりなのですよ。

 ちなみにこの技術はかなり難易度が高いらしい。

 前にししょーに自慢したら「誰にも言うでないぞ!」と怒られた位だから、相当な高等ワザなんだと思う。

 まあししょーも出来るみたいなので、誰にも出来無い技術(魔法の技術。略して魔術と呼ばれる)でも無いんだろうけれど、想写と名付けて使ってるコレは凄く便利だ。

 何しろ、普通なら刻んだらそれでお終いの魔法陣を描いたり消したり出来る。

 魔法は常に精神力で制御しなければならないので、そのプロセスやら何やらを書き込んだプログラムを作って手間を省いたモノが魔法陣だと言うのに、そんな事が出来たら何をか言わんやだよね。

 そんな魔法陣を起動して、何時も通りに結構な勢いでオークから血が流れ出ちゃうと、あっと言う間にオークの処理は完了だ。


「むぅ、そんな事ばかり上手になりおって……」


 ありゃりゃ。

 何故かししょーが呆れてますよ。

 でもさぁ、ワタシはソロでやる予定なんだから、色々器用じゃないと先々難しいと思うんだよね。

 身分の無い流民上がりと言う設定なんだし、そんなヤツが世間に対して武器に出来るのはお金くらいしかないのが普通だ。

 だったら売れる物は高く売れる様にするのが基本ですよ。

 そう思いつつ、更に別の魔法陣を想写してオークの死体に水をかけて血を洗う。

 ついでに自分の手も洗っちゃう。

 生活魔法(に分類されてるヤツね)って便利!


「お主は……」


 ああ、今度はししょーが額に手を当てて俯いちゃったよ。

 うーむ。

 昔は「お主、中々便利なヤツだのぉ」と結構ホメてくれてたんだけどな。

 確かに魔力量頼みなトコロはあるけれど、そんな落ち込む感じにならなくてもイイと思うんだ。


「魔法力は現場で便利には使わん物ぞ? 何時何があるか判らぬからな」

「いやー、だってワタシの場合は有り余ってますしぃ」


 疲れた様子のししょーに切り返して答えると、次はストレージもどきの魔術で綺麗になったオーク死体を収納した。

 実はこの「ストレージもどき」と言うのも結構な反則ワザだ。

 物を魔法で収納する魔法技術であるストレージの魔術には魔導具が必須なのに、ワタシの「もどき」にはそんなの要らないからね。

 これは元々ストレージの魔法陣を想写しようとして、その凄い複雑な魔法陣を記憶しようとやっきになってた時に偶然から出来ちゃった事で、ホントに何も無くてもそれっぽいコトが出来ちゃう。

 何処か別の空間に繋がる入り口が出来る感じで、どんな物でも入る上に一杯になった事も無いスグレものなのだ。

 こんなコトが出来る理由は不明のままだけど、便利だし実害も無いので最近はホイホイ使ってるのですよ。

 特に魔物の死体運び用には重宝してます!

 これが無かったら、ただ魔物の死体を持ち運ぶだけでも高価なストレージ魔導具を使わなきゃいけないし、量が増えればその数だって必要になる。

 人によっては容量が足りなくなった場合、インベントリの魔術で魔物の死体を収納しちゃう人まで居ると聞くので正に死活問題だ。

 だってインベントリの魔術は一定以上の魔法力を持つ人が身体の何処かに魔法陣を刻んで、常時発動状態で使う魔術だよ?

 人によって大きさや仕掛けが結構違うので、大物が入る人もいるかも知れないけれど、ぶっちゃけ体内に入れちゃう様なモノだから論外だよね。


「終わったのならば何時もの様に頼むぞ。放って行く訳には行かぬでな」


 オーク死体を収納して振り向くと、ししょーがそう言ってゴブの死体の山を指差した。

 ハイハイ、判ってますよ。

 自分で積んどいて言うのもナンだけど、平均四フィート半位(約135cm)しかない体長のゴブだって十二匹も積むと結構な大きさになる。

 普通はこの量を一気に燃やすだけでも大変なんだよね。

 但し、このワタシにとっては全然楽勝の範囲内だ。


「ハイハイッ、勿論ですとも!」


 努めて明るい声でそう答え、ゴブ死体の山に向き直る。

 言われなくとも死体の山の下にはとっくに魔法陣を想写済ですよ。

 しかも今回はスペシャルバージョンだ!


「てやっ!」


 ちょっと格好つけながら死体の山を指差して魔法陣を起動すると、シュボッと言う小気味良い音と共にその山を囲む形で地面に円が出現。

 直後にドバッと炎が円柱状に舞い狂い、あっと言う間にゴブの死体が蒸発するかの様に灰化して行く。

 うむ。中々の出来栄えである。


「ななな、なんじゃぁっ、ソレわぁっ!」


 しかしそのまた直後にししょーからお怒りのゲンコツが飛んで来てガックリ。

 結構痛い。

 だから普通人なら昏倒どころじゃ済みませんって!


「ししょーから借りた魔法書に出てた魔法ですよぉ。普通、ホメるトコなんじゃないですかぁ?」


 ワタシは涙目になりながらも、ゴブ死体が全部灰化した事を確認して魔術を解除した。

 勿論、風系の魔法で冷やしつつ、熱気とか灰とかを上空に吹き飛ばしておく。

 山火事とかマジでヤバいしね。


「あの様な魔法技術なぞ何処に書いてあったと言うのだ!?」


 そしてちょっとムッとした表情で見返すと、何故だかししょーがまだ怒ってた。

 うぬぅ、解せぬ。

 カルシウムでも不足してるのかな?


「ええー。だって今の、野焼きの魔法陣ですよ? 見れば判るじゃないですかぁ」


 仕方が無いので軽く説明して様子見。

 ちなみに野焼きの魔法陣と言うのは、魔物死体を食べた獣に魔力が溜まって魔物化(魔獣と言う)するのを防ぐ為に燃やしちゃう魔法陣だ。

 大抵の魔法士(特に騎士団付き魔法士)がやる普通の魔法陣だと書いてあったので、今回使ってみたのですよ。


「野焼きだと? 馬鹿を申せっ。このワシとて、あんな爆炎魔法は初めて見たぞ!」


 あらぁ?

 何だかししょーの反応がヘンですよ。

 うーん、おかしい。

 確かに熱量以外は野焼きの魔法陣の筈なんだけど……。


「うー、でもホントです。確かに温度はムッチャ弄りましたけどぉ……」


 取り敢えず言い訳を言って再度様子見すると、ししょーが目を向いてこっちを見た。

 むう。本当の事しか言って無いのに、そんな反応って傷付くわぁ。

 だって野焼きの魔法陣は見えないかまどを作る魔法だ。

 だから空気の出し入れとか、そんな感じの二次的制御しか出来ない。

 そんな効率の悪さにムッとして、最初から燃焼対象に熱量を付与する形で魔法陣を弄っただけなのに酷い言われ様だよな。

 そもそも本当だったら、ワタシはもっとずっと効率のイイ事が出来る。

 魔法術式にも魔法陣にも頼らず、ただ自前の魔法力と意志力で燃焼現象そのものを制御すればかまどすら要らない。

 でもソレは精霊が使う魔法、所謂精霊魔法と言うヤツに分類されるので禁じ手だ。

 世間は当然として貴族の間(一定線以上の魔法力を持つのが貴族)でもオカルト扱いされる精霊魔法なんて公表しちゃったら、多分自分は一生研究材料にされちゃうか、良くて籠の鳥にされちゃうだろう。

 そんな厄ネタは例えししょーにも見せるわけには行かないからね。


「温度って、お主……」


 あー、なんかまたまたししょーが頭抱えちゃったよ。

 ソレってワタシが悪いワケ?

 ワタシ悪くないよね?


「取り敢えず、人前でやる場合はもう少し控えめな温度にしとけ。シャレにならん」


 うっ……。

 言いたい事は一杯あるけども、ししょーの沈痛な表情にビビったワタシはそれらを口に出さない事にした。

 だってあの表情は密かにマジ切れ寸前の顔なのですよ。

 触らぬ神にタタリ無し!


「へーい、自重しますですぅ」


 何だかとっても納得行かないけれど、此処はしょうが無いので渋々頷いておく。

 キレたししょーほど恐ろしい物は無いからねっ。

 縮地からの渾身の抜き打ちワザとか、前に食らった時には頭の中で走馬灯が回っちゃったもんなぁ。




この辺りで終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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