表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王族伯令嬢は出奔しました  作者: 緒丹治矩
出奔
18/33

018話


 ま、ひょっとするどころの話じゃないか。

 さすがにこの段階になっても付いて来る以上、ほぼ間違いなく自分を追ってると考えるのが普通だ。

 城壁を飛び越えて街道に出てから、ワタシの爆走スピードは本調子のスピードに入って時速換算で四十五マイル(約70km)位は出てる。

 こんなのに付いて来るのなんてシャレにならないわ。

 しかも計七人もいらっしゃいますよ?

 最悪、追っ手だとしても絶対振り切る自信があったのに、これだと覚悟を決めないとダメかも知れん。

 強者が相手で数までいるのなら、完全に覚悟を決め切って掛からないと簡単にヤられちゃうもんな。


「はあ……」


 ノッてた気持ちが一気にダダ下がり、思わず溜め息が出ちゃうけど、ここは真剣に対応を考えないとイカン所だ。

 先ずはこの連中がどう言う敵なのかを見極めるって所かね。

 あいつらが単に自分を連れ戻しに来てるだけならやりようは幾らでもあるし、お目付け役なら尚更だ。

 でもウチのヤバい連中はまだ父上と一緒な筈だし、その絡みだと考えるのは甘すぎるだろう。

 客観的に考えるなら、最も強い線は母上辺りか。

 普通に見れば母上との共闘なんて、母上が継子を廃して実子のクロ君を総領に就ける為の謀略に見えるから、ソレに気づいたバカが勝手にワタシの首を取りに来る事は有り得る。

 しかもそう言う場合、何らかの共闘の証拠を握ってる可能性が高いので、ワタシをヤッた黒幕を母上に仕立て上げたり、そのネタでずっと脅し続けたり出来るから色々と美味しい。

 この説に問題が有るとしたら「何で今日なのか?」と言う事くらいだ。

 そもそも母上と共闘し始めたのは結構前からになるから今更なんて遅すぎる。

 もっと良いタイミングなんて幾らでもあった筈だけど……。


「まあ、そんなネタを深読みしてても埒は明かないか」


 頭を振って考えを切り替え、取り敢えずは連中と軽く当たってみる事にする。

 そこでその反応を見て判断するのが、多分最も良いやり方だと思う。

 ワタシは連中に悟られない様にそっと周囲を見回した。

 王都の城壁を抜けて半刻(30分)は経った現在、街道は既に田舎道と化して来てて、このスピードだと窪みや転がる石に足を取られない様にするだけで大変だ。

 慣れてるこちらはともかく、あの連中はきっとかなりシンドイんじゃないのかな。


「そこでコレですよ」


 にゅふふふと薄笑いを浮かべ、インベントリから小さな黒い玉を取り出す。

 直径約一インチ半(約38mm)のこの玉は、元は自分の魔石だ。

 魔力症を抑える為に使われる自己魔石生成の魔法陣から作られるブツは普通は四角くなるけれど、実母サマが使ってたブツは元は単なる水晶の丸板なのに何故か丸い石状になる。

 その自己魔石の魔法陣を想写する事が出来たので、魔石生成後に魔法陣を書き換えて作ったのがコレだ。

 名付けて爆炎地雷。

 魔法陣自体は唯の火起こしの魔法陣だから知れてるものの、何たってワタシの魔石だから出力が段違いなのですよ。

 しかも一瞬で周囲四インチ(約10cm)四方に触れる可燃物を燃焼状態にしちゃうから、地面に埋まってる草まで燃えるハデハデしさと来た。

 一回しかやってない実験では、大き目の木板が綺麗に灰化して無くなっちゃった位だからね。

 コレを食らわせば、相手の態度も判ろうってモンだと思う。


『ほいっ』


 ワタシは速度を緩めず突っ走ったまま、心の中で呟きつつポポイと後方に三個の爆炎地雷を落とした。

 そして先頭を切ってるヤツらが通った時に起爆っ。


「ずわぁっ!」

「ひぃっ!」


 むう。

 何だか結構マジな悲鳴が聞こえるけど、此処までのスピードが出せる連中(恐らく討伐騎士級)があんなもんで死んだりはしないだろう。

 所詮は魔法を使う事の難しい魔物向けの武器だから、そのクラスの連中なら魔法を無効化レジストして終わりだもんね。

 だから挨拶代わりに使えると考えたんだし。

 ……なーんて思ってたら、段々と結構な殺気が背後から刺さって来ちゃいましたよ!

 えっと……。

 まさか今ので死んだとかじゃないよね?

 追って来る人数は確かに五人に減ってるけれど、まさかな。

 あんなので死ぬ騎士なんて、インチキ騎士もどきだけだと思うよ、ホント。

 ふと気が付くと周囲は穀倉地帯に入ってて、人気は遠く対魔物壁に囲まれた村内だけと言った雰囲気になって来た。

 国境を超える迄には大きな街が三つあり、表街道はそれらを繋ぐ形だから、何時も通りのコースならそろそろ山側の迂回路に入る所だ。

 唯でさえ危ない夜間に更にヤバイ道を行く利点は勿論人気が薄いからで、ついでにセヴンの山岳大森林地帯を舐める様なコース取りはヤバい事があった時に魔物圏の森の中に逃げ込める気楽さもある。

 自分にとっては対人強者の連中より魔物の方がずっと気楽にヤり合える相手だし、そう言う連中は魔物には弱かったりもするから一石二鳥なのですよ。

 今回みたいなケースは初であるものの、こう言う時こそ真価を発揮するコース取りだよね。


「ぬっ!?」


 連中の爆炎地雷の反応を伺ってたら、刺さってくる殺気の質が急に変わった。

 同時に全員が何やら妙な動き(細かい事までは判らん)をし始めて、ちょっとアセる。

 むう、コレは不味い。

 ワタシは速攻で尻尾を背後に伸ばして、背後の空間占有量を上げた。

 飛び道具警戒だ。

 と思ったら、来たっ!

 尻尾に何か当たった瞬間、ホイっと身をかわすと、直後にヒュンと黒塗りの矢が通り過ぎて行く。

 クロスボウだよっ!

 しかもモロに魔法仕掛けだ、チクショウ!


「うへぇ」


 クロスボウで夜に黒塗りの矢を使うなんて殺し屋確定ですよ。

 マジでしゃれになんないわ、コレ。

 しかも一瞬だったけど、飛び去った矢からは結構な魔法力を感じたので、かなりバリバリの魔法仕掛けの筈だ。

 避けてもその後に誘導されて当たっちゃうから、この手の強力な魔法仕掛けの矢なんて普通は避けられないんだよね。

 それでも避けようと言うのなら、今みたいにギリギリまで引き付けて一瞬の動きでかわすしかない。

 とか考えてる間に、最初の一撃が合図だったのか、後続の矢がどんどんやって来た。

 ひゃーっ!

 シャレどころの騒ぎじゃ無いよ、ホント!

 しかもこの矢達、微妙に各矢の狙い所や発射タイミングを変えてかわした所に次の矢が来る様に計算されてる様だから、かわすのがマジでツラい。


『なんて考えてるバヤイじゃないー!』


 誰だよ、こんなプロ中のプロ雇ったヤツゥ。

 五十ヤード(約45m)は離れてるのに、走りながら撃ってこの正確さって何なの!?

 しかも恐らく毒入りである為か、矢は徹底的に胴体狙いだ。

 手足とか頭狙いならまだラクなのに、胴体狙いでこの矢陣をかわし続けるのは無理ゲー過ぎるよっ。

 胸のポケットに収まって、急にピッピッと鳴き出したピーちゃんを一瞬見る。

 ピーちゃんはこちらを見て「大丈夫だよー」と言ってる感じだったけど……。

 頼むよ、ピーちゃん!

 ホントはこんな魔法仕掛けの矢なんて叩き落すしか無いのに、こんな爆走状態の最中に後ろを向いて剣を振るとか絶対ムリだ。

 風精の加護でもなんでも、頼れるモンなら頼りたい!

 ヒュンヒュンとスッ飛んで来る矢を必死の思いで何とかかわし続けながら、ワタシは突っ走った。


「!」


 アレ? 今避け損なって一発食らったかと思ったのに……。

 気のせいか?


「ゲッ!」


 って、アレ?

 んんっ!?

 おかしい。

 今のヤツとその前のヤツは確実に食らってる筈なのに、何故か矢は当たってない。

 コレ、もしかしてピーちゃんがやってるのかな?

 確かにこの矢は風系の魔法仕掛けだから、風精のピーちゃんなら介入出来てもおかしくはない。

 思わずピーちゃんを見ると、彼(彼女?)もこちらを見てピッピッと元気に鳴いてくれた。


『よぉっしゃー。流石だぜ、ピーちゃんっ!』


 コレはマジで助かったわ。

 未だ勝算は見えてはこないけれど、少なくともピーちゃんのお陰で破れかぶれの突撃を選択しないで済む。

 ワタシは少しだけホッとすると、再び気合で矢をかわし続ける事に専念した。



この辺りで終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ