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現代冷やし中華概論 第二回 冷やし中華の発生

 はーい、席についてくださいね。講義始まりますよ。はい、そこスマホ直してくださいね。休み時間は終わってますよー。はいっ、では皆さん今回もよろしくお願いします。


 えー、予想通り受講者数減ってますね。ガイダンス終わって一時間後で、先ほどの三分の二くらいでしょうかね。いや、前回はガイダンスでしたから減るのはいいんですよ。説明聞いて「あっ、この講義合わない!」って考えて履修外す分には全然大丈夫なんですよ。

 ただですねー、講義進める度にどんどん減っていって最終的には小学校の一クラスくらいになりますからね。ですけど提出されるレポートの量はその倍以上ですからね。……はぁーあ。


 じゃあ気を取り直して、講義内容に入っていきますからねー。はい、今日のテーマは冷やし中華の発生についてですね。皆さん適宜ノートに写していってくださいね。

 えー、ではまずね、冷やし中華とはそもそも何か。何を指して冷やし中華と言うのか、その定義を決めましょうかね。

 んじゃはい、そこの君。うん、そう前から二番目のチェックの君。冷やし中華は何をもって冷やし中華と言いますか?

  うん、冷たい中華麺の料理……。良いですね、言ってほしい言葉をそのまま言ってくれました。彼が言った通り冷やし中華というのは、中華麺を使った冷たい料理。もっと細かく言うと『中華麺を冷水で締めて酢醤油かゴマダレで調味したもの』ですね。まぁここまで細かく定義しなくて良いですから、ちゃんと自分の言葉で冷やし中華を説明できるようにしておいてください。


 えー、それでは冷やし中華の発祥についてですが、日本の千九百年前半には本や雑誌で確認されていたこと、同時期に東京の中華料理店で提供されたなどの情報があります。

 ですが、今回重要なのは誰が何時作ったかということではありません。こういった情報はね、ネットで調べればいくらでも出てきますからね。

 冷やし中華が何故、どういった需要、環境で生まれたのかということを思考していくのがこの講義です。


 では何故冷やし中華が生まれたのか!

 その理由に迫る前にまた質問です。日本で食されている代表的な麺類には何がありますか。えーっと、机の下で何か弄っている奥の君。……質問は日本で食べられている代表的な麺は何か、ですよ。

 はい、うどんに蕎麦に素麺に……。ラーメンはこの場合だと中華麺ですね。質問を聞き返さなければ完璧でしたね。

 今言ってもらった麺を二種類に分けます。まず日本生まれの麺グループが素麺うどん蕎麦。で、日本に後から入ってきた麺グループが中華麺とパスタですね。

 前者である日本生まれの三種の麺は全て冷やして食べることが大きく認められています。ざる蕎麦にぶっかけうどん、そうめんは言わずもがなですね。

 後者の麺も日本が関わったことで冷製化されています。冷製パスタを作ったのはイタリア人でありますが、その発想は日本のざる蕎麦からであり日本が関わったと言えます。中華麺も冷やし中華だけでなく冷やしラーメンに冷やし担々麺、つけ麺など様々な冷やし麺があります。


 つまり、日本という国は麺を氷水で冷やして食さねば気のすまない国なのではないかということです。

 では何故我々日本人は麺を冷やすのか。今回冷やし中華を通じて考えたいのはそこです。


 この水で締めるという手順で麺にどういった変化が起きるか。まず、麺についていた無駄なでんぷん、俗に言うヌメリが落ちます。さらに麺が引き締まって適度な硬さが出てきます。

 俗にいう美味しい麺の代名詞と言っていいコシが生まれます。えー、この講義では『麺を冷水で締めた際に起こるこの現象』を『麺の涼化主張』と呼びます。あっ、もちろんこの用語は実際ある用語ではありませんので注意してくださいね。この講義だけしか使いません。


 しかしながらこの涼化主張というものは手間が掛かります。そのまま食べられる茹で上がった麺を、わざわざ冷まし冷水に浸して洗いザルにあけて水をきる……。これだけの手順が必要なのに何故、人々は麺を冷やすのか。


 それは麺を冷やせる環境と麺を冷やしたいという需要が日本にあったからです。

 ただでさえ麺を茹でるのに大量の水を使っているのに、さらに冷えた水を使う行為……。これは古くから水耕稲作が盛んで河川が多い日本だからこそ、水資源が豊かな国だからこそできる行為であると言えます。つまり、日本では麺を冷やすことのできる環境が十分にあったということです。実際、素麺は室町時代から茹でた後に洗って食していたと言われています。


 では次に何故冷やして食べたがったのか。これはやはり、日本の夏の過ごしにくさが関わってきていると言っていいでしょう。今でこそクーラーという文明の利器を振りかざしていますが、それは現代になってからです。ジメジメと高温多湿で汗ばみ蒸れる夏、それが日本の夏でした。

 暑さというのは食文化に大きな影響を与えます。例えばインドやメキシコは暑さからくる食欲不振を香り豊かで刺激的なスパイスで乗り越えました。

 ですが、日本はもっと短絡的に直接食事を冷やすことで乗り越えています。実際麺料理以外でも冷たい料理は多いですよ。冷奴に酢の物に焼きナス、宮崎の冷や汁や山形のダシなんかも冷たくして食べますね。だからこそ、日本人は麺を冷やしたのです。


 ……まだチャイムは鳴っていないのに机の上を片付けないでくださいよ。もうまとめに入りますから、それまで我慢してくださいねー?


 はいじゃあまとめ! えー、つまり日本という国では麺を冷やさせる環境と冷たい料理を食べたいという需要があった。そこに中華麺が入ってきたから、冷やし中華が生まれた。中華麺という外来種が日本という環境に適応したんです。

 これは中華麺に限らず、日本で麺類としてデビューするということは冷製化は避けられない変化なのです。

 ということを自分の言葉でちゃんと説明できるようにしておくこと! はい、次回は冷やし中華の構成です! 終わり!

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