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冬語り  作者: みあ
3/3

名残惜しき冬

 小さい頃は永遠に続きそうだと感じていた長いながい冬も、大きくなった今ではあっという間に過ぎ去ってしまう。

 深く積もっていた雪が少しずつ厚みを減らして溶けていき、草木が目覚め始める。朝晩の冷え込みが緩やかになり昼の日差しが暖かみを増し、久しぶりに姿を現しつつある土の合間からぴょこんと緑が芽生えていく。

 世界を雪の白が染めるころに始まる冬語りは、大地が緑に染まり色とりどりの花が咲き乱れる春になれば終わる。私は窓から外を見て、一つ息を吐いた。もう春も近く、今年の冬語りは今晩終わってしまう。

 冬は寒くて長いけれど、町中のみんなが教会に集まって神官であるフォア様が毎夜毎夜教会でお話をしてくれるから大好きだ。

 やわらかな芽吹きの季節である春も、それが大きく育つ夏も、収穫をする秋も大事なんだけども。フォア様のお話を聞く方がずっとずっと私には大事なことなのだ。

 なのに、今年ももう終わる。とてもとても寂しくて、とてもとても名残惜しい。

 

 

 

 夜が早く来て欲しいと心の底から願ったのは昨日までで、今日だけは早く来て欲しいのかどうなのか自分でもよく分からなかった。

 少しでも早くフォア様のお話を聞きたかったけれど、それで今年の冬語りが終わるのは寂しすぎる。

 もちろん礼拝の時にフォア様はいつもお話をしてくれるけど、その時のお話は冬語りの時よりもずっと真面目であまり面白くない。真面目な時のフォア様はきりりとしていて、遠いところにいるように感じてしまうからかもしれない。

 だからこそ、フォア様が気さくに次々と面白い話をしてくれる冬語りは貴重なのだ。

 私が望んでも望まなくても、時は必ず進んでしまう。暖かい光を注いでくれた太陽が姿を消し、ひやりとした空気と共に夜が来る。

 たとえ神様にお願いしたところで、永遠に冬が続かないことはわかっている。それは他でもないフォア様が教えてくれたことだった。

 時間は時と空間を司る時空神様でも易々と操れない。時は流れて当然のものだから、たとえそのお力をお持ちだからといってそうそう使ってはいけないんだってことだった。時空神様のお力は、時が正常に流れるように管理するためにあるんだって。

 だからいくら私が願っても、時空神様が叶えてくれるはずがなかった。せめて少しでも長く冬語りを感じようと、いつもより早く教会へ向かうくらいがせいぜい。

 冬語りの会場である教会は街の中心にある。一番寒い頃はたくさん着込んで毛布を持ち込んでいたけれど、終わりが近くなれば上着を一枚羽織るだけでいい。

 扉を開くと、中から暖かい空気がやってきた。

「こんばんは」

 教会の中にいたのは、白い法衣を身につけたフォア様ただ一人。

「こんばんは」

 あいさつを交わしてから私はフォア様に駆け寄った。

 もう子供じゃないんだからとお母さんには言われるだろうし、フォア様も思ったかもしれないけどこればっかりは仕方ない。だってだって、フォア様は町中の人から好かれていて、一人でいらっしゃるなんてめったにないんだから。

 誰も来ないうちに二人っきりでお話しできるなんて、神様のどなたかが気を利かせてくださったに違いない。

「早いねえ」

「少しでも早くお話が聞きたくて」

 フォア様は目をぱちくりとして私を見た。

「みんなが集まるまでは、はじまらないよ?」

「えっと、じゃあ、少しでもフォア様とお話がしたくって!」

 私が言うとフォア様はもう一度目をぱちくりとして、それからにっこりと笑いかけてくれた。フォア様の笑顔はやさしくて、見るといつでも心がほわっとあたたかくなる気がする。

 

 

 

 みんながやってきて今年最後の冬語りがはじまるまで、あと少し。

 どうかもう少しだけ、フォア様と二人きりでいられますように――気を利かせてくださった神様に図々しく一つお願いして、私もフォア様に負けないくらいに笑顔を浮かべた。

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