もう戻れない日常とデジャヴ
「めずらしいね。一斗が難しそうな顔してるって」
「登校再開初っ端でそれは無いだろ」
彼女は橘叶、彼の許嫁である。詳しい事情はよく知らないが、政略婚?みたいなものらしい。
「で、体は大丈夫なの?」
「ん?ああ、医者も不思議がっていたよ。『後遺症なども確認できない』って。まあ詳しい説明は分からなかったけど」
一応念のためとかで痛み止めの薬をもらっているが、特に痛むところは無く、出番は恐らく無いだろう。で、問題なのはクラスメイトのほうなんだよな・・・。
「おーっす!まったく、心配させやがって!」
源竜二、なんかエクソシストの偉い人が言っていたけど、こいつエクソシストなのか・・・。通りで『源』の姓に聞き覚えがあったわけだ。
「で、だ?お前が休んでいる分のノート、どうするつもりだ?」
「残念ね、ノートとスイーツをトレードしようとしたんだろうけど、今回は私が先約」
にしても、なんでだろう?普段ならノートとか見せてくれないのに・・・。
「この件に関しては一斗の責任じゃないし、たまには恋人っぽいことしたい・・・」
「まあそれもそっか!今回ばかりは諦めるか、リア充さんよ?」
「俺も納得できた。けどよ、叶?俺たちは許嫁ではあるが、付き合ってはいないだろ・・・。それにどちらかと言うとリア充はお前らのほうだろ、竜二」
「同意」
「へっ!?いやいやいや、そういうことない――」
言い切る前に竜二同様、噂をすればなんとやらと言わんばかりに現れたのは――。
「あ、実ちゃん、おはよう」
「おっはよう、叶っ♪」
平実、竜二とは幼いときからの腐れ縁らしく、一緒にいるとこが多々目撃されており、『付き合っている』ということが噂として流れている。あと叶とすごい仲がいい。
「というか、一斗くん、本当に死んだんだよね?何で生き返ったの?」
「生き返ったのが悪いように言うなよ・・・。てか俺も何で生き返ったのか知らないぞ」
多分、死神かエクソシストが絡んでいるんだろうけど。
「まあ、それもそうだよね!てか、もうすぐホームルーム始まるじゃん!」
言い終わる直前にそれを知らせる鐘が鳴り、窓際側に席を構える実が走って向かう。そして担任の先生とともにうちの学校の制服を着た、少女がいた。
「はい、みんな席に・・・、ついているか。この時期にではあるけど、このクラスに転校生が入ることになったから紹介するね」
先生が彼女の名前を書くため、背を向けている間にひそひそ声が大きくなっていく。クラスの男子の目は彼女に向けられていた。俺もまた彼女に視線がいった。だけど、多分他のやつとは違う・・・。
「『月葉恵』ちゃん、仲良くしてね」
恐らく他の連中は『かわいい』とか『今の時期になんで?』とかありふれたものだろう。俺もそう思うところはある。だけど、それよりも先に強い違和感を感じた・・・。まるでずっと以前から知っているような・・・。名前も知らないし、恐らくあったことも無いであろう彼女に。
「それで、席は・・・」
彼女、月葉恵は席を指定する前に机と机の間を歩き、俺の前で立ち止まった。そして次の一言で違和感はさらに増していく。
「先生、彼の近くの席・・・、でお願いします」
彼女にどのような意図があるかは知らない。だけど、確かな異質さだけは消えなかった。