AM10:30 楓ちゃんの部屋~本社会議室
「……楓ちゃん?」
楓ちゃんはふうっと目をつむってる。
……寝てる。この子、ほんとーに、無防備だよな。
「……和也が必死になるの、判る気がするな……」
危なっかしいわ、これじゃ。
(それにしても……)
……なんで、この子には判ったんだろう。
俺自身もよく判ってなかったのに。
『心から……好きだっていえる事をして下さい』
……誰かに、そう言って欲しかった、のかもしれないな、俺も。
……不思議な子だな、楓ちゃんは。
こっちのこと、見透かされてるような、感じがする。
(まあ、あの和也がメロメロになったっていうだけでも、大したもんだけどさ)
きっと、今みたいに優しい言葉にも惚れたんだろうな。そんな気がした。
はあ、と熱い息が楓ちゃんの口から漏れた。
……多分、これから熱上がってくるよな。
(……仕方ない。応援を頼むか)
俺は、電話をかけた。
「……もしもし? ああ、俺、晴人だけど。ちょっと、頼みたい事があるんだ」
*** PM12:00 本社会議室
「……素晴らしいプレゼンでしたね、高橋会長代理」
少し笑いを含んだ声。
振り返ると……晴人に良く似た背の高い男性が。
「達人伯父さん」
俺は頭を下げた。
「……グループ企業の面々も満足されていたようだし。君のような後継ぎができて、靖人伯父上も安心だ」
じーさんは、向こうで役員たちと話をしていた。
達人伯父が褒めてくれた……ということは、第一段階はクリアしたな。この人は身内だから、と甘く見たりはしない。
はあ、と伯父がため息をついた。
「晴人も君のように、やる気を出してくれればよいのだがね……」
「晴人……は……」
今、楓と新プロジェクトを立ち上げようとしてる、そう言おうとした時、着信音が鳴った。
「失礼します」
スマホを確認する。晴人?
「……もしもし?」
『……和也? 会議終わっただろ?』
「え? ああ」
こいつ、終わる時間見越して掛けてきたのか?
『……楓ちゃん、熱出して寝込んでる』
「え!?」
楓が!?
『……お前、今日大事な仕事があるから知らせるなって。今……』
「……すぐ帰る」
俺は皆まで聞かずに、電話を切った。
「……申し訳ありません、達人伯父さん。私はこれで失礼します」
「和也?」
俺は一礼し、じーさんの元へ向かった。
「……和也。これから会食でもと……」
じーさんの言葉を遮り、頭を下げた。
「申し訳ありません、会長。本日私はこれで帰らせて頂きます」
周りの役員たちが目を丸くしてる。じーさんの顔つきが変わった。
「……楓さんに、なにかあったのか?」
「……体調を崩して、寝込んだそうです。すぐに帰ります」
じーさんが頷いた。
「……わかった。お前は今日の責務を十二分に果たしておる。早く楓さんの所に行ってやりなさい」
「ありがとうございます……失礼します」
俺は一礼して、会議室を足早に出ていった。




