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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
73/88

PM7:00 食堂~居間

*** PM7:00 食堂


「……美味そうだな」

 和也さんが、食堂に入って来た。

(……よかった、いつもの和也さんだ)

 テーブルの上に咲いたケーキの花を見ながら、そっとため息をついた。


 ……和也さんが、こっちを見た。

 目が合う。ふっと自然に微笑まれた。

 ……とびきり、優しい笑顔。


 ……心臓が、一瞬、止まった。


「どうしたの、楓ちゃん?」

 晴人さんの不思議そうな声。私は慌てて首を振った。

「な、なんでもないですっ」

 みんなでわいわい、ケーキを分ける。

 私は薔薇のジェルがかかった、レアチーズケーキ。和也さんは、ミントの効いた濃いめのチョコケーキ。美月さんはスイートバイオレットの花が乗ったレモンケーキ。

 おじいさまは、薄紫や黄色が混ざったハーブゼリー。晴人さんはキャラウェイを混ぜたパウンドケーキ。


「ほう、なかなかの味じゃな」

「本当、美味しいわ」

「……甘さがちょうどいいな。コクがあって」

「だろ~? まだまだ開発中だから、意見があったら言って欲しいんだ」

 和也さんと美月さんが、晴人さんにいろいろ意見を言ってる。

 その様子を見ながら、スプーンでケーキを食べる。とっても美味しいって思いながら、まだ、心臓がどきどきしてる……。


 和也さん……


 ちらりと隣の和也さんを見る。淡い空色のVネックのセーターが良く似合ってる。

 雑誌のモデルみたい……。


 ……和也さんみたいに、スタイル良くて、なんでもできる人から『余裕ない』って、言われても……。

(実感、わかないなあ……)

 そんな事を思ってた。


*** PM9:00 居間


「……ふう」

 どさり、と和也さんがソファに腰を下ろす。

「あいつら、いつもああなのか?」

 あいつらって……おじいさまに、またいとこさんに、お友達ですよ?

「そ……うですね……?」

 ソファの前の低めのテーブルに、コーヒーを載せたトレイを置く。


 ……ケーキの味見ついでに、みなさんに夕御飯も食べていってもらった。

『このスープ、美味しいよね。うちの店でも出したいなあ』

 ……って、いつも晴人さんは言ってくれるけど……。

(魔法をかけながら、しか作れないから、お店に出すのはムリかなあ……)

「楓。無理はするなよ? 疲れてたら、追い返してもいいんだから」

「追い返すって……」

 私は首を振った。

「疲れてなんか、ないです。私より、和也さんの方が……」

 ……大きな手が私の腕を掴んだ。

 そのまま引っ張られて、ソファの上に座る。

 ごろん。

「……和也さん?」

 和也さんの頭が、私の膝の上、に。


「……俺は、こうしてるだけで、疲れとれるから」

「……コーヒー、冷めちゃいますよ?」

「……後で」

 そう言って、和也さんは目をつむった。


 ……すぐに静かな寝息。

 そっと綺麗な髪をなぜながら、皆の事を思い浮かべた。


 美月さんと晴人さん、いつも顔合わせるたび、あーだこーだ言い合ってるけど……。

 結局、晴人さんが美月さんを送ってくれてるし。案外、お似合いかも。


 おじいさまは、いつも葉山さんがお迎えに。

『楓様。和也様をよろしくお願いしますね』

……って。葉山さんは和也さんの事、ずっと気にかけてくれてるんだなあ。二十二年前のあの時もそうだったから。


 和也さんの中の、あの子はこの頃姿を見せない。寂しくなくなったのかな。

『楓。いつかあなたも……』

 おばあちゃんの言葉。

『運命の人に出会うから』


 ……うん。おばあちゃん。

 安心しきった和也さんの顔を見ながら、思った。


 ……私、あの時、本当の魔女にならなくて良かった。

 人として生きるのを、やめてたら……

 

 ……こんなに、大好きって思える人の、傍にいる事もできなかった。

(和也さん……)


 窓の外を見る。今日は満月。銀の光に薔薇園が照らされて……。

「……あ……」

 そっと和也さんを揺り動かす。

「和也さん、起きて?」

「ん……?」

 和也さんが、ゆっくりと目を開ける。

「……一緒に来て下さい」

 和也さんが頭を起こし、目をこすった。

「……どこに?」


 私はにっこり笑って言った。

「……薔薇園です」

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