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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
71/88

PM6:30 食堂

「……ただいま」

「「「「おかえりなさい」」」」


 ……は!? なんで……。


 俺は目の前の光景を疑った。


「よっ、和也。今日は早いんだな」

 楓の隣に立っていた茶髪の男が、右手をひょいっと挙げた。

「……晴人」

 相変わらず、軽そうな奴。

「和也さん、晴人さんがまたお土産持ってきてくれて……」

 楓がにっこりと笑った。

「とってもおいしそう! 目移りしちゃいます」

 ……テーブルの上に開けられた、白い箱の中。

色とりどりの小さなケーキが並んでいた。


「これ、今度俺がプロデュースするレストランで出そうと思ってるケーキなんだ」

 ……女性が好きそうだな。宝石箱のようだ。

 晴人が説明を続けた。

「ほら、いろんなケーキを食べたいけど、カロリーが……って女性は気にするだろ? 一口サイズにすれば、いろいろ選べるし……」

 晴人がちら、と楓を見た。

「……でも、それだけじゃ、つまらないから、楓ちゃんに協力してもらったんだ」


 ……楓ちゃん。

 多分、俺のこめかみに青筋立ってる。

「……題して、『美しくなるケーキ』。ハーブで美容効果のあるものを楓ちゃんに選んでもらって、うちのパティシエがレシピ考えたんだ」

 晴人が楓に笑いかけた。

「本当、楓ちゃんのハーブ好評なんだよ。このまま、うちの会社のフードプロデューサーにならない?」

「え?」

 楓が目を丸くした。

「……で、でも、私、ハーブの資格ぐらいしか持ってないんですけど……」

 戸惑ったような楓を晴人が遮る。

「大丈夫だよ~。俺もついてるし……」

 ……俺が言葉を発するよりも前に、やや冷たい声が響いた。

「……それは困りますわ、晴人さん。楓さんはわが社とタイアップ中ですの」


「美月さん!?」

 伶子が楓の肩に後ろから手をまわした。

 猫の様な伶子の瞳が、晴人を捕らえている。いつものきりりとしたパンツスーツ姿、だ。

「……お前、社長になってから偉そうだよな」

 晴人が伶子を睨む。伶子はふふん、と晴人を横目で見た。

「あら、楓さんの才能に目を付けたのは、私が先ですわよ?」

伶子が言葉を続ける。

「楓さんの作った、『月の薔薇水』すごい人気よ? 作ってもらっても、すぐ売り切れて、手に入らない~って苦情が来てるくらいなの」

 ……そうなのか。

「ねえ、和也? S・I・コーポレーションの未来のためよ? 楓さんに、協力してもらってもいいわよね?」

「……お前が俺の邪魔をしないならな、伶子」

 はあ、と伶子がため息をつく。

「楓さん、こんな心の狭い男でいいの?」

「あの……」

 楓が困ったような顔をした。

「その意見には、俺も賛成だな」

「無駄口叩くな、晴人」

 ぴしゃりと言い返す。

 

 ……はっはっは、と高笑いが響いた。


「まあまあ、楓さんが困っておるじゃろう。その辺にしておいたら、どうじゃ?」

 伶子と晴人が黙る。

「……で、どうしてあなたが俺より先にここにいるんです?」

 俺は、食堂の机に座っている、羽織袴姿のじーさんに冷たい視線を投げた。

「和也さん、おじいさま、仕事のし過ぎでめまいを起こされたんですって」

 楓が俺を見ながら言った。

「なんでも、いつもの何倍ものお仕事が回ってきたって……それで早退されたって……」

「……へえ……そうなんですか? 会長」

 ――どう見ても、元気そうにしか見えないが。


 俺の視線にも全く動じずに、じーさんが楓に言った。

「いや~……和也の調子も今一つでなあ……今日はもう切り上げて帰った方がいいと判断したんじゃよ」

 ……。

 はあとため息が出た。

「……着替えてくる」

 俺は食堂を出て、ニ階に向かった。

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