和也SideのStory~魔女と出会った夜3
***二年後 満月の夜 レストラン
「ねえ、なに考えてるの?」
甘えたような声。俺は向かいに座っている麻耶を見た。
右手に赤ワインの入ったグラスを持ち、左ひじをついて、俺を舐めるように見ていた。真っ赤なネイルが人目を惹く。
「……仕事だ。まだ残ってる書類がある」
はあ、と麻耶がため息をつく。
「食事の時ぐらい、別の事考えられないの? 和也さんって本当、仕事ばかりよね」
すねたような瞳。
……麻耶ともここまでか。
「すまない。まだまだ、ひよっこの会社だからな」
フォークとナイフを置き、ミネラルウオーターを一口飲んだ。
「……先に失礼する。会社に用事を思い出した」
ちら、と麻耶の瞳に苛立ちが映った。
「なら、和也さんの家で待たせてもらおうかしら。確か会社近くのマンション住まいよね?」
……あそこか。
「いいわよねえ、最上階のペントハウスでしょ? 一度そこからの夜景、見てみたいと思ってたの」
……本当にあの場所がいいと思ってるのか。
「……仕事がいつ終わるかわからないから、待たせるのは悪い。タクシーに送らせるから」
むっとしたような表情。
「……わかったわ。折角だから、デザートまで頂いて帰るわね」
「ああ」
もう連絡が来る事もないな。伝票を持って席を立つ。
「じゃあ、失礼する。ゆっくりして行ってくれ」
麻耶はちらと手を振り、ワインを口にした。
……俺はタクシーの手配をして、駐車場に向かった。
***社長室~屋上
……これで、終わりか。後は、明日、美月に頼めばいい。
背を伸ばす。窓から外を見る。
……今日は満月、か。やたら明るいと思った。
……ちり……ん……
何か、が鳴った音がした。辺りを見回す。何もない。
(……ん?)
首元から銀の鎖を引っ張りだした。半分に割れた、銀色のメダルを右手で持つ。
……熱い? 今までこんなことはなかった。
『……大事に持っていて。……いつかまた、きっと会えるから』
声が……聞こえた気がした。
メダルを戻して、社長室の鍵をかける。秘書室を抜けて廊下に出た。
(……非常階段の扉が開いてる?)
扉を閉めようと近寄った時、ふわっと風が流れた。階段を覗き込むと……屋上の方から風が入ってきている。
誰か、屋上にいる?
階段を上って、屋上に出る、鉄の扉をゆっくりと開けた。
「……!?」
俺は目を見張った。
(何……!?)
……少し赤みを帯びた、大きな満月。
その中に……
……長い髪をなびかせ、こちらに背を向けて空に浮かぶシルエット……があった。
「おねえ……ちゃ……」
思わず声が洩れた。
影が、こちらを向いた。
「きゃ……っ!!」
(……え!?)
バランスを崩したように、影が落ちる。俺は咄嗟に駆け出し、両手を伸ばした。
……ふわっと柔らかい身体、が空から手の中に落ちて来た。
……薔薇、の匂い……だ……。
目を瞑ってる、この……顔……は……。
「……大丈夫か?」
「しゃ、社長っ!?」
瞑って目を開けて、彼女が叫んだ。
「お前……」
言葉が出ない。確かに空を飛んでた。
(『彼女』と、関わりがある……のか……!?)
目の前で、あたおたしている彼女。入社してから、ずっと見てきた彼女。
「……総務部の、内村 楓……」
名前を呼ぶと、ぎくっとしたように、俺を見た。
「……なんで、空、飛んでた?」
そう聞くと、彼女は一層落ち着きを無くしてたが、やがて俺を真っ直ぐに見た。
「あ、あの……」
彼女の髪が風になびき、俺の手に巻き付いた。
「……!!」
ふっと、彼女がふらついた。
「おいっ……!?」
――崩れ落ちるように、彼女は気を失った。




