表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
再び……今の満月
6/88

PM10:00 会社の屋上

 風が今日も気持ちいい。月の光も、優しく包み込んでくれる。

 いつもと同じ、満月の夜。


 ……隣に、この人がいなければ。


「……本当に、飛ぶんですか?」

「ああ。落とすなよ」


 髪をほどく。解放された髪の波が、満月の光を吸収する。

「……しっかりつかまってて、下さいよっ!」

 そう言って、社長の腰に手を回し、しっかりとしがみつく。社長の手が、私の肩に回る。


 ……私は、思い切り屋上の床を蹴った。


「これは……!」

 社長が下を見て、興奮したように言った。

 きらきら光る、街の明かり。全身をつつみこむ風。月の光が温かく降り注ぐ。


「お前、ずるいな」

「は?」

「こんな気持ちいい事、一人占め、なんだろ?」

 んーっと、目を瞑り、両手を広げて、社長が言う。

「一回転とか、アクロバット飛行とか、できないのか?」

「や、やめて下さいっ!」

 こうやって社長にしがみついて空飛んでるだけでも、エネルギー消耗してるっていうのに!! 私は焦って言った。

「ほら、もう降りますよっ!」

「もう少し」

「だ、だめですっ! 私、力が不安定なんですよ!? 落としたらどうするんですかっ!」

 ちぇ……と文句を言う社長の目は、子供みたいに拗ねていた。


 ……態度も子どもよね……うん。


 ゆっくりと下に降り……とんっと、屋上に降り立った。ふうっと、大きな息を吐き、社長から手を離した。

「な、何事もなくて、よかった……」

 社長がこちらを向く。

「そこまで緊張することじゃ、ないだろうが」

「き、緊張しますよ! 人を抱きかかえて飛ぶ、なんて初体験なんですからっ!」

「……だったら、慣れろよ。これから満月の度に飛んでもらうからな」

「えええええっ!?」

 目が本気(マジ)だ。

「や、やめて下さい、社長! 怪我とかしたら、どうするんですかっ!」


 ……急に不機嫌そうな顔、になった。


「……和也、だろ」

「う……は、い……」

 こんなにじっと見られたら、言いにくいんですけど!? 私は俯き加減に、言った。

「か、和也……さん」

 やっぱり、小声になってしまう。居心地悪いというか、なんというか……。せ、背中がむずむずする感じ……。

 社長……和也さんは、じっと私を見て、大きくため息をついた。

「まあ……今はそれで勘弁してやる」

 ……今は……って、ナニ……。どう考えても、嫌な予感しかしない。


「俺の家に寄ってから、お前の家に行くぞ」

「……はい……」

 なんかもう、やけっぱちになってきたわ……。

 先を歩く大きな背中の後で、屋上の階段を降りる。


 本当に、この人、何考えてるんだか……。


 はああ、とため息をつきながら、私も早足で和也さんの後を追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ