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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
三日後
52/88

PM2:00 病室

「な……」

 何を言ってるんだ、楓!?

 俺は楓の目を見た。真っ直ぐにこちらを見ている。何の迷いもない


「しかし……」

 じーさんが戸惑ったような声を出した。当たり前だ。二十二年前の別荘の火事も、今回の火事も、裏にいるのは武田の叔父だ。そのくらい、じーさんも予測がついている。

(自分も死にかけたっていうのに……何を……)

「……お願いします」

 楓がベッドの上で頭を下げた。

「武田様は……あのお屋敷が、お好きなんです」

「……」

「お母様が生きておられた頃、一生懸命に掃除されていた……、和也さんのお母様と一緒に遊んだ、あのお屋敷が」

「楓……お前……」

「……武田様の本当の願いは、ただ一つ。おじいさまに、息子だって認めてもらう事です」

 じーさんの目に、驚愕の色が浮かんだ。

「お母様の願いで武田姓なんだって、武田様ご存じないんです。自分がおじいさまに認められていないから、九条じゃないんだって、そう思われてるんです」


 ……楓がじーさんの瞳を見る。

「……武田様の心の隙間を埋められるのは……おじいさまだけです」

「……」

 じーさんは、黙って楓を見ていた。


 楓……あいつの心、を読んでる……のか!?


 楓が俺を見る。全てを見通すかのような、澄んだ瞳。綺麗……だ……。

 楓が俺の袖を引っ張った。俺の耳元で、ある言葉を囁く。


 ……参った。完全に……楓に降参、だ。


 俺は楓の肩に手を回した。

「……俺からも頼みます。お祖父様」

 じーさんが驚いたように俺を見た。

「和也……お前は、それでよいのか?」

「はい」

 楓を見つめる。温かな何か、が心に溢れてくる。

「楓が望むなら……俺は構いません」

「そう、か……」

 じーさんは遠い目、した。

「……さすがは、マリーさんのお孫さんじゃな……」

「え?」

 楓が不思議そうにじーさんを見た。

「マリーさんも……時々、全てを見透かしたかのような事をおっしゃられてましたぞ」

「……彼女の言葉は、いつも優しかった……今のあなたのように」

「……おじいさま……」

 じーさんは目を瞑り……そして、目を開けて、楓を見た。


「……わかりました。譲司とは話をしましょう。家の事も……楓さんの思うように」

「ありがとうございます、おじいさま」

 楓がうれしそうに笑った。


 ……この笑顔。

 この笑顔があれば……俺は何だってできる。

 楓が、少し照れたように言った。

「あの……もう一つお願いがあるんです……」

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