PM2:15 社長室
「……変、だな……」
契約書をざっと一通り確認したが、特に不備な点は見つからなかった。
――今日中にどうしても見直してほしい、と連絡があったのが今朝。
今まで取引のない会社だが、業績も申し分なかった。
「……」
何か、がおかしい。勘、というか……。
「誰かが……仕組んでいる……?」
――その時、何か、がはぜるような音がしたかと思うと、扉の隙間から、灰色の煙が入りこんできた。
「……!!」
席を立ち、扉を開ける。
「……これは……っ!!」
派手に咳き込んだ。秘書室に煙が充満していた。思わず後ろに、一、二歩下がる。
「っ……!」
身体が、痺れたように、動かなくなる。
(く……そ……っ……!)
ガタガタと膝が震える。血の気が引いていく。
……おとうさん!
……おかあさん!
『あの時』の惨状が、目の前をよぎる。
炎が、全てを、飲み込んでいく。
息が苦しい。肺が焼けるように痛い。髪が焦げる匂い。手を伸ばしても届かない。
「――っ!!」
……炎に……覆われて、いく……
気……が……遠……く……
「……和也さんっ!!」
柔らかな感触。薔薇の匂い。
時間が……今、に戻る。
「……か……えで……?」
楓が――俺に抱きついて、いた。




