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女騎士の憂鬱  作者: ヒロ
4/8

一応ファンタジーものなのです

 生誕祭二日目。

 今日も中庭にいる国民に姿を見せたあと、今は部屋で夜会の準備と称した休憩中だった。


 質のいい彫刻が施されている机でなにやら手紙のようなものをしたためていたクラリスが、書き終わったのかそれを綺麗な便箋に入れて立ち上がる。


「よし、出かけるぞ」

「わざわざ行かなくても、手紙くらい侍女にやらせちゃえば?」


 自ら投函しに行こうととしているのかと思い、たしなめるつもりでクラリスに声をかけた。

 仮にも王族が、そんなに何でも自分でやるのはいただけない。

 ある程度偉そうにするのだって位の高い人間の仕事なのだ。


 でもクロードは手紙は持たずに、おもむろにウィッグを外し、ドレスを脱ぎ始めた。

 思わず後ずさる。


「な、なにしてんの?」

「出かけるっつっただろ。こんなヒラヒラした服でお忍びにいけるか」

「はぁ!? お忍び!? 今祭り中だよ?」


 なに考えてんだこいつは。

 私が大いに慌ててるのに、クラリスは平然とハイヒールも脱ぎ捨て、ウールで出来た青い服を身につけて、金髪は目立つので茶色のウィッグを手早くつける。

 靴も庶民が一般的に使う、つま先がとがったものに履き替えると、あっという間に町にいる青年が出来上がった。


 ……どこで手に入れたの、その庶民セット。


「祭り中だからこそだ。夜会まではまだ時間もあるし、ちょっとはお前も楽しみたいだろ?」


 出かける気満々の格好と態度でたずねられ、思わず返答に詰まる。


「そりゃあ、そうだけど。でも警備関係で誰か指示あおぎにくるかも知れないし」

「思いつくだけの指示は書いておいた。あれで出来ないような奴はいらん。それに二日目ならそこまで問題も出ねぇだろ」


 そう言って、クラリスは机の上に置かれたさっきの手紙を指した。

 何を一生懸命やってるのかとおもえば……


 しかしこうなったら、もう誰にもクロードは止められない。


「はぁ。……ちょっとだけだからね」


 だったら、一緒に行って警護するのが専属騎士の役目。

 ……決してお祭り行きたいとか、出店見て回りたいとかいう理由じゃないから!


「そうこないとな」


 クロードはニヤリと笑って、庶民セットをもう一組取り出した。

 ……だからなんでそんなもの持ってるの。しかも二つ。


 クロードが持っていたそれはクロードの着ているものよりもゆったりとしていて、私の体つきも隠せた。あ、一応言っとくけど、人並みの凹凸はありますからね、あしからず。

 うん、これなら剣の一本や二本は隠せそうだ。


 着替えた私とクラリスが並べば、庶民の男二人組の完成だった。

 ……我ながら悲しいことに、鏡に映った私はウィッグもつけていないのに、男に見えた。


***


 お祭りには、びっくりするほどたくさんの人が来ていた。


 どこをみても人、人、人……

 これなら警備関連でてんてこ舞いになるのもうなずける。


 いつも仕事の合間に来ている城下町が、まるで知らない国のように思えてしまう。

 あちこちにカラフルな張り紙や旗が飾られ、出店はどこも長蛇の列。


「すごい……」

「お前それ何回目の『すごい』だよ」


 呆れたような口調で、けれど顔は笑ってクロードが言う。


 分かってるけど、すごいとしか言いようがないんだからしょうがない。

 興味をひくものがたくさんありすぎて目移りしてしまう。


「だってあれ見て、魔獣の芸やってる! あ、あっちは魔動機売ってる!!」


 はしゃぐ気持ちを抑えきれず、声が高くなった。

 一応変装している身なので男のふりをしなければならないけど、その時の私はそんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。


 魔獣というのは、魔術によって従えることのできる獣のことだ。

 そのルーツはまだ分かっていないけど、普通の動物より身体が大きく、力もあり、凶暴なのが特徴だ。

 この国の西にある禁じられた森にも生息している。

 『従えることのできる』と簡単に言ったけど、普通は危険すぎて魔獣なんかには近寄る人なんかいない。自分の力を過信して、試しに行く人は毎年いるけど、生きて帰ってきた人はほとんどいないという噂だ。

 膨大な魔力を持ち、さらに冒険心のある人間だけが魔獣を使役できる。


 あ、魔力っていうのは、誰でも生まれつき持っている不思議な力のこと。

 といっても、魔術を使える人間はほんの一握り。

 魔力という、体の内側に秘められている力を魔術という形にして外に出すには、ある程度まとまった魔力と訓練が必要なのだ。

 だから魔術を使える人は貴重で、この国では幼い間に魔力の量を計測し、一定量魔力を持つと判断された子供は魔術師養成プログラムを受けることを強く勧められる。

 プログラムを受けた子供は魔術を使えるようになるけど、その後の進路は魔術師になろうが農夫になろうが自由。もっとも、魔術を使えるようになった時点で進路は決まったようなものだけど。なんたって給料が多いから。


 ちなみにプログラムを受けたあと騎士になりたいという人たちもいて、騎士団には魔術を使える特殊部隊がある。


 魔動機というのは魔力を動力とした機械のことで、これらのおかげでこの国はずいぶん発達した。

 工場の機械化で生産のスピードははるかに上がったし、交通手段も機械化されて格段に早く目的地につけるようになった。

 ただ、定期的に魔術師に魔力を補充してもらわなくちゃいけないのが玉にきず。

 魔動機だけでも高いし、魔力を補充してもらうのもタダじゃないから、一般庶民には到底手の届かない代物なのだ。


 向こうの広場では見世物をやっているようだった。

 人だかりの真ん中で背の高い男の人が何やら命令し、虎に似た魔獣がその指示に従うたび人々から感嘆のどよめきが起こる。


 遠目で見ているだけでワクワクした。


「あれだけの魔獣がよく従ってるな。あいつが捕まえたんだとしたら相当の魔力の持ち主だ」


 クロードも驚いたように呟いた。

 しめしめ、興味をもったな。


「早く行こうよ」


 語尾に音符がつきそうなほど明るい声が出た。

 クロードも私に誘われるがまま人だかりの方へ歩いて行こうとした。

 しかし、その足はすぐに止まる。


「よう、綺麗な顔の兄ちゃんたち」


 どこからか複数の男たちが出てきて、私たちの進路をふさいだから。

 どの男も大柄で、全員「ぼくたちこれから悪いことしまーす」って宣言してるような顔をしてる。


 ……とても道を聞きたいだとか、そういう穏やかな雰囲気ではない。


 予想通り、男たちは物騒に笑って言った。


「楽しそうじゃねぇか。いいねぇ、ちょっと俺らにもその気分わけてくれよ」

「なぁに、乱暴しようってんじゃない。ただ俺ら、少しばかり持ち金が足りなくてな」

「そうそう。楽しい祭りの日に水を差すつもりはねぇさ。穏便に行こうぜ」


 男たちはニヤニヤしながら私たちを取り囲みはじめ、隠し持っていた棒切れやら金棒やらを取り出して、これ見よがしに振り回した。

 相手から見ればひ弱な二人組、ちょっと脅せばすぐ従うと思ったんだろう。


 私は、このベタな展開とか、丸腰(に見える)の二人相手に複数で、しかも武器を使って脅していることとか、そんな卑怯な奴らが傲慢にもお金を取り上げようとしていることよりも、『兄ちゃんたち(・・)』と呼ばれたことに静かに怒っていた。


 一方クロードは舌打ちしながら、「近衛兵ども、なにやってやがる…」と呟いていた。

 この付近は確か、近衛兵の担当だった気がする。でもこれだけ人がいるんだから、しょうがないんじゃないかな……。

 とか、諌める心の余裕は、私にはなかった。


 私たちの心中なんて知らない男たちは、自分たちの有利を信じて疑わない顔でなおも凄んだ。


「有り金全部だしな」


 そこでクロードが動き出した。


「十数人も集まってわざわざカツアゲとはご苦労だな。だが、今時こんな風に脅して金をまきげるのがどれだけ生産性のないことか、その足りない頭でよく考えてみたらどうだ?」


 見た目だけは綺麗なクロードに辛辣な言葉を吐かれ、男たちは顔を真っ赤にした。


「……てめぇ、いまなんつった!?」

「なんだ、聞こえなかったのか? 頭だけじゃなく耳も悪いのか。……救いようがないな」


 最後の台詞は半笑いと共に贈られ、今度こそ男たちはぶちギレた。


「てめぇのその生意気な口、叩き直してやる!」


 そう叫んで、一斉に襲いかかってきた。


 騒ぎに気づいて辺りの人間が注目し始める。

 一方は物騒な武器を持ったたくさんの男たち、もう一方は丸腰の弱そうな男二人組。

 見ていた人々は誰もが、二人の若者が真ん中に倒れているに違いないと思った。


 しかし。


「うお!?」

「ぎゃあっ!」

「ぐっ!!」


 男たちから口々にくぐもった悲鳴があがり、中心にいた何人かが吹っ飛ばされた。

 そして、それぞれ長剣と短剣を持った若者たちが現れる。


「……俺もセシリアのゆったりした服にすりゃ良かったか」

「短剣苦手だもんね。交換しようか?」

「お断りだ」


 顔をしかめてクロードが答え、やっぱりと私は笑った。


 飛ばされた仲間を見て怯む男たち。

 一方的に自分たちがなぶるはずだった相手が武器を持って対抗してきたのだ、その動揺は当然と言えた。

 しかしこちらは二人で、あっちは倒れた仲間を含めなくても10人はいる。


「ぐ、偶然に決まってる! 行け!」


 と誰かが叫び、再び武器を構えた。

 私たちも姿勢を低くして、油断なく周りを警戒する。

 こんなごろつきと毎日訓練してる私たちだったら実力の差は歴然だし、さっきは余裕ぶって会話してみせたけど、やっぱりこれだけ人数がいると気はゆるめられない。


 意を決した一人がクラリスに襲いかかった。

 男の腕ほどもある長い棒を上から振り下ろす。

 クラリスは短剣で相手の武器をいなし、空いた左手で思いっきり鳩尾を突く。

 男はなすすべもなく悶絶した。


 触発された男がもう一人、今度は私を殴り付けにかかる。

 最初の一撃を避けて愛剣で武器を叩き落とし、手刀で気絶させた。


 男たちはなにも考えずがむしゃらに武器を振り回すだけなので、複数で襲ってきても相手は楽だった。


「まだやるか?」


 半数以上地面とこんにちはさせてから、クロードが静かに問う。

 

 それは降伏を促す言葉だったけど、冷静さを欠いている男たちには挑発に聞こえたらしい。

 一瞬憤怒の表情になって、しかしそれはすぐに消える。


 そして何故か、ニヤリと笑った。


「へ…へへ、細いなりしてやるじゃねぇか。だが、もう終いだ」


 なにその悪役にぴったりな台詞。いや、悪役か。

 男の余裕そうな態度から、そこはかとなく嫌な予感がした。


 そして、予感は見事的中した。

 そこの路地から、裏道から、物騒な空気をまとった男たちがさらに大勢現れたのだ。

 総勢で50人くらい? いや、もっといるかも……。


 どうやら一番最初に気絶させた男が目をさまし、仲間を呼びに行ったようだった。……なんて余計なことを!


 いくら私たちでも多勢に無勢。形勢は一転した。


 男たちは口々に「あれが?」「なんか弱そうな奴らだなぁ」とか好き勝手言っている。


 一対一ならあんたらなんかお呼びじゃないよ!


 とか考えている間に男たちはさらに増え、私たちの周囲を固めた。


 完全にかこまれて、自然と背中合わせになる。

 触れている部分から、クロードの緊張が伝わってきた。


「…セシリア。俺がなんとか隙を作るから、逃げろ」

「やだ。クロードこそここで正体ばれたらまずいでしょ、逃げて」

「出来るか、馬鹿」


 そんな会話をしながら、目だけは忙しくこの包囲網を突破する糸口を探す。ほんの少しの隙間さえあれば、私たちなら逃げ出せる。

 でもさすがに人数が多くて、人の層が薄くなっているところはない。


 ——こんなとこでクロードを危険な目にあわせて、専属騎士失格だ、私。


 自己嫌悪に陥りそうになったけど、慌てて意識を戻した。いまはそれどころじゃない。


「なんとか人数減らして、逃げよう」

「……それが良さそうだな」


 およそ望みのなさそうな策だったけど、それしかない。

 ……となれば、先手必勝。




 私たちは同時に飛び出した。




 斬って、蹴って、殴って。

 さっきのように手加減する余裕は全くなく、無我夢中で攻撃した。

 それはクラリスも同じようで、茶髪のウィッグが外れるんじゃないかと心配になるくらいの猛攻をかけていた。

 今の私たちは、相手を倒すことしか頭にない。


 その甲斐あって、立っている人数は少しずつ減ってきていた。

 しかし圧倒的に分のある男たちは先程のように怯むことなく、次から次へと攻撃をしかけてくる。


 真正面と右から二人の男が襲いかかってきたのを剣で受け止め、返す柄と足で反撃した。

 そのとき。


 クラリスと目があった。

 男たちの攻撃を防ぎながら、汗で茶髪が張り付いている顔で、すごくビックリしたときみたいに大きく目を見開いてこっちを見ていた。


「…え?」


 気配を感じて振り返る。


 男の一人が、ちょうど私めがけて金棒を降り下ろそうとしているところだった。




 やばい――


 とっさに目をつむって衝撃に備える。


 あれをくらったら怪我だけじゃすまない。


 痛い…!


 ……。

 ………………。

 ……………………………………?


 いた…くない…?


 いつまでたっても覚悟していた衝撃がこない。

 外したんだろうか?それとも、戦意喪失?

 あるいは、フェイントと言うことも……。


 恐る恐る目を開ける――




 始めに見えたのは、黒いローブだった。

 魔術師のみが着ることを許される漆黒のローブが、目の前でたなびいていた。

 視線を上にあげると、やたら身長の高い男が私に背を向けて立っているのがわかった。


 その男は私に襲いかかってこようとした金棒を片手で受け止めていて。


 そして呆然としている私を振り返って、微笑んだ。


「怪我はありませんか、セシリア?」



 ――さっき遠目で見た、魔獣使いのお兄さんだった。

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