驚愕のじじょう
ちゅんちゅん、なんて聞こえるはずもない幻聴を、ひどく懐かしく思った。
「・・・・・・夢じゃ、ない・・」
目が覚めて、第一声がそれだった。
もとより朝は弱いアキが目を覚ますまで、暫しの猶予が必要だ。
ぱちりとは素直に開いてくれない瞼を無理矢理こじ開け、少し頭を上げて辺りを見回す。
周りは岩だらけ。
景色は、昨夜のものと変わらない。
これは、夢じゃない。
再度突きつけられた現実にげんなりしながら、自分を包む布へと顔を押し付けたところでようやく気づいたことがあった。
「ん?」
これは、まさか?
ゆっくり起き上がり、黒い布を手に取り広げてみる。
やっぱりそうだ。
これは黒い人がつけていたマントだろう。
貸してくれたのだろうが、当の本人が辺りには見当たらない。
怪訝に思いながらも立ち上がり、マントについた大きめのゴミを払うと手早く畳み、胸に抱える。
そのついでに自身の体を調べてみた。
昨日の記憶の中、顔だけで判断するとするなら、今の見た目はきっと6~7歳頃の自分だ。
まだまだ他の友達に比べ、小さかった頃の。
なのに着ている衣服は、高校の制服なのでかなり驚いた。
それもぶかぶかになっているわけではない。
ブレザーもスカートも靴も縮んだかのように、ぴったりなのだ。
つまりは高校生のコスプレした幼女?
ちーん。
脳内で鐘がなった。
ちなみにカバンと大事なクラリネットは攫われた時草原に置いてきてしまったらしい。
唐突に起きた出来事にパニックになり、それらを考慮する余裕はなかったのだ。
その事実を思い出し、思わず遠くを見やる。
・・・・・ダブルパンチです。
「・・起きたか」
「・・・おはようございます」
遠い目をして現実逃避をしているところで、黒い人が戻ってきた。
挨拶をしたあと、はい、とマントを差し出せば、黙って受け取り背中の装着する。
そしてまたもや流れるような動きでアキを抱き上げた。
今回は左腕に座る形だ。
「あのっわたし、歩けます!」
「駄目だ」
慌ててそう言えば、即座に却下され、ぐっと詰まる。
・・・なんなのその反応の速さ。
昨日の沈黙は何処へ行った。
「で、でもっ」
「駄目だ」
取り付く島もない、という言葉が思い浮かぶ。
しかしここでめげてはいけない。
こんな羞恥プレイは正気に戻ったアキには耐えられないものだからだ。
「いやっけど!」
「却下だ」
おいぃっせめて最後まで言わせろよー!!
即答で断られると地味に刺さるものなのだと実感する。
図らずも興奮状態に陥り、涙目になりながら抗議した。
「どうしてですか!」
「お前の足ではそう長く歩くことは耐えられまい。
俺が抱えたほうが早い」
「そりゃそうかもしれませんけど、でもじゃあ何処に向かっているんですか!」
「俺の国だ」
「どこですか!!てかそもそもあなた誰なんですか!
何でこんなことするんですかぁああああ!」
てゆーかもう降ろしてよおおぉ!!
流れるように続いた会話に釣られるように、言葉が次々と湧き出てくる。
普通に会話しているだけなら、きっと怖気づいて聞けなかった。
興奮状態に陥っていることが幸を奏していたといえる。
「アーノルドだ。
俺は、お前を迎えに来た」
「えっ」
思いがけない台詞に、思考が止まった。
目を見開き、黒い人・・曰く、アーノルドの目を見つめる。
迎えに?
どういうこと?
「お前は異世界からこの世界の神によって選ばれ、我が国の王の花嫁として喚ばれた人間だ」
ハナヨメ?
はなよめ?
――――――――――――――――花嫁?
「えええぇぇえぇえ!!」
ない!それはないよ!どういうことだよ!
しかも神様に選ばれたとか!
王様の花嫁とか!!
おぃい出てこいや神様てめぇこのやろぉおおお!!!
ちょっとずつ進みます。