表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
8/24

つきつけられる試練

水面から見返してくる姿は、記憶の中にある幼い自分で。





「えええええええええ、ちょっま、なんっ・・どういうこと!

 ていうかこれだれ!わたしか!!・・・ぅうえええええ」



泉を覗き込む体勢のまま、口からは無意味な言葉が転がり落ちて行った。

自分が何を喋っているのかすら、頭にない。

理解することなど不可能に思えた。


つーか、なんで、わたし、幼児になってんの!!


ふひゃーと口から奇声が出てゆく。

がくがくと体が震える。

力が入らないといってもいい。

頭が混乱して、何が何だかわからなくなった。


「・・・おい」


「いやいやいやおぉっかしいぃってええぇぇ」


こちらへ近づいて、声をかけてくる黒い人にも反応出来ない。

今のアキに、そんな余裕などなかった。

遂にどうしようもなくなり、うぎゃーーーーーーと叫びながらごろごろ転がる。

まさにその姿は幼児が駄々こねているように見えるだろう。


いや、でもこれほんと受け付けないよ。

こんな展開ほしくなかった。

今までの展開を許容した私をほめて欲しいくらいだった。


よりにもよって幼児!


いっつぁすもーる!



道理で黒い人がやたらでっかく見えるわ軽々と運ばれるわだよ!




そら子供ならそうなるだろうさ!




「・・・おい、大丈夫か」



黒い人がいつの間にか跪き、こちらの顔を心配げに覗きこんできた。

しかしそのことに頓着する余裕は、やはり今のアキには欠片もない。



これが大丈夫に見えるならおまえの脳みそ疑うわっ



完璧八つ当たりに近い暴言を胸中で吐き散らし、あああぁと奇声を発しながら蹲る。

一旦パニックになった脳内は、すぐには落ち着いてくれない。

しかししばらくすると、徐々に呻くだけになり、頭を地に着け丸くなる。

ようやく乾いたはずの目が潤んだのを知りながら、脳内で同じ問いを繰り返した。



あぁ、どうして。


どうして、こんなことに。


わたしが一体何をしましたか。


ここがどこで、何が起きて、わたしは今どうなっているの。


これから、わたしは一体どうなってしまうの。


どうしてこんな目に遭わなきゃいけなかったの。


どうして。


どうして、どうして、どうして。







「う~・・・」


「・・・・・・・」


蹲ったまま動けなくなったアキの頭に、ぽんと暖かい大きなものが被さってきた。

それが黒い人の手だというのは想像に難くない。

抵抗することもなく黙っていれば、そのまま軽く頭を撫でられる。

その意外なほど優しい手つきに、自分以外の温もりに、自身がだんだん落ち着いてくるのを悟った。



数分後、頭部に置いてある手をそのままに、ぐい、と体を起こした。


目線だけは地面に置いたままぐしぐしと乱暴に目元を拭くと、黒い人に止められる。

そしてすぐに冷たい布を目に充てられ、身体がびくりと震えたが、すぐにその心地よさにされるがままになった。




理解の出来ないことばかりで、頭ががんがんと痛む。


もう、今は何も考えられない。


・・・・考えたくもない。



くたりと力を抜いたアキを少し上向かせ、目の上に布を乗せると、黒い人はそのままの体勢のアキを軽々と抱き上げた。

今度は肩に担ぐでもお姫様だっこでもなく、自分の片腕にアキを座らせる形だ。

そうしてアキを自分に凭れさせ、安定させると、泉から離れ岩棚へと向かった。







黒い人は焚き火を前にして暫し黙考すると、それをそのままに、岩棚を背にして座り込んだ。


視界を布で覆われているアキがいつの間にか眠りに落ちていたのをいいことに、自分のマントでアキを包み込む。

そしてその場にごろりと横になった。



アキを自分の胸に凭れさせ、両腕で抱きこむように支える。






やがて、静かな湖のような青い瞳で夜空を見つめると、黒い人もまた黙って目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ