表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
5/24

みとめたくない現実

―――――この年になって、泣きすぎで呼吸困難になるとは思いもしませんでした。




いきなり現れた黒い人に、がっつり肩に担がれて暫し後。

為す術もないアキは、泣きながらもとりあえず大人しく担がれていた。


「うぇっ…ふ、ぐ…うっく」


「………」


ざっざっざっ、という規則正しい足音と情けない泣き声だけが辺りに響く。

いつの間にか草原を抜け、岩壁に囲まれた谷のようなところに出ていた。

泣き始めてから、体感時間で既に小一時間が経過していると思う。

精神的にも体力的にも、限界が近い。

そろそろ泣き止みたいところだが、こればかりはアキ本人にも止められなかった。

我慢しようにも、止まったと思っては次の涙が後から後から零れていく。

不安感と怯えと身体的苦痛が拭えない為、どうしても堪えられないのだ。


それにしたって我ながら涙腺弱すぎ。

ちょっと自重しようか自分。


…心底自重したくても出来ないんだけども。


しかし、アキがどれだけ泣き続けようが、黒い人は何の反応も返さない。

その反応のなさがなんだか恐ろしいが、酷いことは(問答無用で担がれて運ばれてはいても)今の所されていない。

怒っている様子も、ない、ように見える。

すぐさま身に迫る危険がなさそうだとわかり、おかげでだんだん落ち着いてきた。

それでも涙は止まらないが、そこはもう諦めよう。

泣きながら、アキはぼんやりしてくる頭を叱咤して、必死に考えていた。



まず、これは現実か否か。


夢であるといわれることがベストだが、なんだかあまりにも現実感がありすぎる。

身体が感じる風や光も、涙が出ることも、それによる呼吸の苦しさも。

今まで夢でこんなにもリアルなものを見たことがなかった為、判断に迷う。

しかしこちらへ来てしまった、その方法を考えると、どうにも信じがたい。

学校の階段から落ちたのに、どうして眼を開けたら大草原のど真ん中に居ることになるのだろう。

誰でもいいから説明してほしい。

もし原因が居るのなら、神様だろうが魔王だろうがなんでもいい、出るなら今出てこい。

じゃなきゃ納得出来ない、いや、したくないけど、でもやっぱり納得できないことは気持ち悪いではないか。

あっでも魔王だったらなんかこわいからちょっと事前申告してからでお願いしますすみませんごめんなさい。



…それから、突然現れた、黒い人。


名前も素性もわからないのに、突然現れたと思ったら、掻っ攫う様にアキを担ぎあげ現在に至る。






…………………ん?





……あれ、これわたし攫われてるのだろうか。



ようやく現状を確認する気になって、そこではたと思いつく。

お互い何も知らない同士でありながらも、この黒い人の歩みは揺るぎ無い。

つまりは何処か目的地があるということではないか。

そして多分、この人はわたしが何なのかをある程度は知っているということだ。

そうでなくては、子供とは言えどうして見ず知らずの人間をいきなり攫うようなことが出来るだろう。

人攫いのように売り飛ばすとか奴隷にするとか無きにしも有らず、だが。

まっすぐこちらへ向かって来たのだから、その線は薄いように思う。

そう考えると、何でわたし?とか、何が目的?等色々考えることはあるが、現状はアキにはどうしようもなかった。

結局わからないことはどうしようもないのだから。

なので、それもとりあえず置いておく。

そうして今一番気になるところは、この黒い人の腕力と体力の有り得なさだった。




…いや、あの、こんな時に何くだらないこと気にしてんだとかは、言わないで。


だってわたし、結構大柄なんですよ、ほんと自分でいうのも悲しいですが。

確かに昔は小さかったんです。華奢なちびっこでした。

小学生低学年までは、列の前から1番か2番だったんです本当です。

しかし高学年になった頃から、あれよあれよと育ってしまい。

高校2年生になった現在は、身長165㎝でいわゆるぽっちゃり体型なんです。

…ぽっちゃりっていったらぽっちゃりなんです。

それをあろうことか何の苦もなく肩に担ぎあげちゃってるこの人。

どんだけ力持ちなの?

ていうか巨大すぎない??


担ぎあげ、かつずっと歩き続けているのにも関わらず、その歩行にも呼気にも疲れは見られない。


見た目から鍛え上げられていると判断がついたが、それでも信じられなかった。

いや、わたし自分がどれだけ重いかわかってるんです。

そこはね、現実を見ないとね…おっといかん涙の量が増える(そして止まらない)









ぐるぐる巡る思考は、1人だけで考えていても、どれひとつとして解決なんてしてくれなかった。



ただひとつわかるのは、アキがどうあがこうと、きっとこの黒い人には敵わないであろうということ。



これだけ軽々と運べるくらいだ。



きっと、この人にとってアキ一人、なんとでも出来るのだろう。



何も出来ない、何の力も持たないただの一般人のアキなど、殺そうと思えば容易いものだろう。



だから、本当ならば殺されていても可笑しくないこの現状でまだ生きていられるのは、この人が少なくとも今はアキを殺すつもりがないということなのだ。



そうなってしまう、そのときまでは、この人に縋るしか術はない。



ならば、今アキに出来ることは、この人に大人しく従うことだ。











…でもやっぱこわいよおかーーさーん、と無意味に脳内で呼びかけながら、まずは涙を止めることに尽力しようと決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ