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ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
22/24

しゃざいと思わぬ展開

ぽん、一度だけ頭に乗せられた温もりに力を得て、扉の前から逃げてしまいそうな己に活を入れた。





とん、とん、とん、



「・・・はい、どうぞ」


「・・・・・・」


「・・・」


ごきゅり、


「・・?どうぞー」


「・・っ」


「・・・」


室内からかかる声が僅かに沈んでいたように思えて不意を突かれ、うっかり声を飲み込んだ。

2度目の応えにすら答えられず、ぱくぱくと無意味に口を開閉する。

しーん、と沈黙が漂って、余計に自分の首が締まるような気がしてならない。


やっべ、どうしようこれ。


うわああぁしくったぁあ!と内心で奇声をあげつつ、緊張故に返答もままならない自分が口惜しい。

せっかく、わざわざアーノルドに神殿まで連れてきてもらったのに。

その辺を歩いていた神官さんに尋ねれば、今は神官長の部屋に居るとのことだった。

部屋の前まで来たところでアーノルドに下に降ろしてもらって、一旦深呼吸。

初めから自分がやりたいから、とアーノルドにお願いしたのはアキ本人だ。

つまりこればかりは、彼の手助けはもらえない。

しかし。


「・・・どなたですか?」


「・・っ!」


っあああぁ、声に不信感が籠ってるぅうう!!


扉をノックしたまでは良かったが、そこから先に進めなくなってしまった。

かちーんと固まってしまったアキを見下ろすアーノルドの視線が、後頭部に突き刺さる。


「・・アキ?」


「だ、だだだってぇええ!」


だって、なんか、なんかね!


小声で呼びかけてくるアーノルドに、半泣きになりながらこちらも小声で返す。

チキンハートだと自分で公言しているわたしですよ!

意味もなく言葉を繋ぐも、それで現状が覆るわけではなく。


かちゃ、


「・・・一体、何をして・・おや」


「はうっ!!」


どっきーん!


扉の前でごちゃごちゃやっている間に、ファリースが出てきてしまった。

あまりにも驚いて、思わず心臓のあたりを押さえる。

危うく口から中身が出るとこでした。


「アキさ・・・・・・・・」



沈黙。


呼びかけようとしたファリースが、途中で詰まった後、困った顔になる。

先刻、様付けをしたら返事しないとアキが言った為なのだろう。

律儀に言いつけを守るその様を見て、アキもまた、情けなくも口を噛みしめる破目になった。

ちがう、ちがうの。

そんな顔をさせる為に、ここまで来たわけではないのに。


「あの、ファリース・・あのね、」


「・・はい、なんでしょう?」


意を決して口を開くもその先が出てこず、喉の奥で閊えてしまう。

かーっと顔が熱くなり、服を握りしめる手が汗ばむ。

アキは、このときようやく、自分は誰かに謝るのがとても苦手であることを思い出した。

今までは、このような事態にならないよう上手く立ち回ってきた為、実は未だに慣れないことなのだ。

まさか、そのツケがこんな形で自分に帰って来るとは、思いもよらなかった。


「・・・あの、あの・・・えぇと・・」


もじもじもじょもじょ。

口の中で、謝罪の言葉が蟠る。

さっさと言ってしまわねば、ファリースがまた不審に思うだろうに。


「えとね、ファリースに、言いたいことが・・っ」


ある、のです、が・・・


そう言いながら、勝手に追い詰められて、視界が滲んでぼやけてしまった。

言葉が尻すぼみになってゆくのが、情けなくてたまらない。

謝るだけなのだから、早く言ってしまえばいい。

そう理解しながらも一向に出て来てくれない声に、焦りが募る。

困惑の極みに達するところで、唐突に、涙腺が決壊した。


「あ」


「うっ」


「え?」


アーノルドが無表情で呟き、アキが呻くように泣き声を漏らし、ファリースが困惑して音を零した。


「え、あの、アキさ・・・・・アキ、さん・・・?」


「・・ふ、うぅ・・っ」


「アキ?」


ぐしゃぐしゃに崩れた顔で泣きだしたアキを、アーノルドが腕に抱きあげ、顔を覗き込む。

ファリースが苦肉の策とばかりにようやく名を呼ぶのも聞こえぬようで、アーノルドを凝視したままぼろぼろと涙を零した。


「アキ」


ぐっと唇を噛み締めて、せめて泣き声だけでも零さぬよう、必死になって耐える。

どうしてこんなとこで泣いてしまうのだろう。

やだやだやだ、泣きたくない。

けれど、アーノルドに名前を呼ばれて、それも決壊してしまった。


「うっ・・・うえええぇん、ファリース、ご、ごめんなさい~!」


「えっ」


「・・・」


元凶私ですか!と驚いて固まったファリースを前に、恥も外聞もなく、わぁわぁと大泣きする。

もはやファリースにとっては迷惑と言わざるを得ない状況になってしまった。

何事かとあちらこちらから神官さん達が現れて、こちらを覗いてくるのも全く気にする余裕がない。

傍から見れば、完全にファリースが悪者である。

実際元はと言えばファリースのせいではあるのだが。


「アーノルド、とりあえず中へお連れしてください」


大層焦ったファリースも意識の外に、ひたすら泣き喚く。

混乱はピークに達して、アキの脳内はパニック状態だった。

わけもわからぬまま、アーノルドに抱き上げられ神官長のお部屋へ入場したのだった。

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