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ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
15/24

ひとときの悪戯

目が覚めてすぐ、あまりにも驚愕して、言葉を失った。



「――――――――!!?」



ふっと浮き上がるように意識が戻り、緩慢に瞬きをして、後。

くり、と首を横に倒してみて、すぐ目の前にあったのはアーノルドの顔だった。

目を閉じて、眠っている・・・そう、寝顔が目の前に。

いや、それはいい。

別に気にしない。

しかし。


ちちち、ちかいんですけどーーーー!!


あんまり吃驚したものだから一瞬息をするのを忘れてしまったほど。

顔と顔の間があまりにも狭い。

わずかに15センチほどしかないその隙間を認識して、脂汗が噴出した。



待て待て待て。


どうした、何があった、誰か説明して。



固まった体勢のまま、内心で叫ぶ。

混乱する頭を必至で抑えながら、アキは無意識に体に力を入れた。

パニックに襲われながらも、必至で、一番近い記憶を探り出す。

確か、食事をした後、ベッドに入って休んだのだった。

アーノルドがベッドの傍の椅子に座って、頭を撫でてくれていたのを覚えている。

それで、それで―――――――それで?


それがどうしてこうなりますか。


わかるかーい!!



「・・・」


「・・・・っ」


アーノルドが僅かに身動ぎして、思わず体が震えた。

わわわわ、これ起こしていいの?

むしろ起こさないでわたしが逃げるべきなの?

どうなのーーーー!?


「あ、アーノルド、さん」


どきどきと煩く鳴る心臓を抑えながら、震える声で呼びかける。

起きてえぇええ心臓に負担がかかるううぅぅ!!


「アーノルドさん、起きてください」


声をかけながら、震える手を伸ばして、アーノルドの顔に触れる。

ぴたぴたと頬を軽く叩いても、眉間に皺をよせこそすれ、起きる気配がない。


「起きて。起きてくださいー」


だんだん心臓の動きも落ち着いてきて、なんだか余裕が出てきた。

もはや何しても起きないような気までしてきてしまう。

ちょっとだけいたずら心が沸いて、無意識ににまっと笑った。


「起きてぇー起きないとこーんなことしちゃうぞーぉ」


むにっ


両手を伸ばして、アーノルドの頬を掴み、軽く引っ張った。

思ったよりも柔らかく、しかもすごく伸びるので、思わず限界突破まで挑戦したくなる己を止めることに必死になる。

さすがにそれをしたらだめだ。

それだけはやめておこうよ自分。


「くっくっく・・ちょ、うける・・・」


声を押し殺しながら、滲み出る笑いを堪える。

端正な顔なのに、頬はみよーんと伸ばされているその滑稽さ。

腹筋が危険です。


「ぶふっ・・・ぷくくく、やばい、これいじょうはやばい・・ひぃー」


ゆっくり手を放すと、アーノルドの両頬を軽く摩りながら、こみ上げる笑いと戦った。

耐えられない、しかしここは耐えるのだ、アキ!しっかりしろ!

すりすり、と触れる肌を優しく撫でる。

寝ている大の男の頬を撫でながら、忍び笑う幼女の図。

怪しい。

この上なく怪しい。


「・・・・・・・・目が覚めたか」


「ひいっ!!!!」


どっきーん!


ぱちっと擬音がつきそうなほどあっさり目を開けたアーノルドに見つめられ、思わず奇声をあげた。

起きてたのかよ!卑怯すぎるわ!!


「おおお、起きてたならゆってくださいよおおぉ!!」


思わず涙目になって、アーノルドを非難する。

うわぁあん、怖かったよ!

すげー怖かったよーーーー!!

アキが思わず大声をあげてアーノルドを詰れば、無表情なまま頭を撫でられた。


ええい、それでご機嫌とりになるかー!


憤然としていると、むくり、起き上ったアーノルドがベッドから降りた。

未だ寝ころんだまま心臓のあたりで手を握っているアキを見下ろすと、黙って抱き上げ、腕に座らせた。

そういう体勢だと、自然アキの目線のほうがアーノルドより高くなる為、見下ろす形になる。


「・・すまん」


アキの目をまっすぐに見上げ、ぽつり、こぼされた謝罪に、居た堪れない思いが沸く。

本当は、謝るのなら、こちらのほうなのだ。

休息を摂らなきゃいけなくなったのも、寝ていたアーノルドに手を出したのも、実際問題、アキが悪い。


「いや、あの・・・こちらこそ、いたずらしてごめんなさい」


「・・いや、元気になったのなら、いい」


ぺこり、小さく頭を下げながら謝れば、赦しの言葉が返ってくる。

いいのか、あれはいいのか、アーノルドさん。

幼女だからってそう簡単に許したらだめだと思うのだがどうか。

しかし赦して下さったのだから良しとしておこう。

その優しさに良心を刺激されつつも、アキはこっくり頷くに止めた。


「・・・ファリースが、おまえが起きたら、部屋へ来ると言っていた」


「あ、はい、わかりました」


アキを抱き上げたままアーノルドが本題に入った。

そもそもアーノルドは、元はそれを伝える為に傍に居たんだろう。

何がどうなってああなったのかわからないが、とりあえず休息は十分に摂った。

ファリースが来るというのなら、ここで大人しく従ったほうが良いのだろう。

一度頷いて受諾すると、アーノルドはアキを椅子に腰かけさせ、ファリースを呼びに行った。


その後ろ姿を見送りながら、なんだか過保護っぷりがあがってやしないか、と思ってしまうアキだった。

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