いかんの意
中途半端に途切れていたので、3行程追記しました。
申し訳ありません(8/10)
白いやわらかな丸パンに、サラダと温かいきのこのとろっとしたスープ。
それらをゆっくりと時間をかけながら咀嚼して、胃に入れる。
お腹は空いていなかったが、あまり胃に負担にならない量だったのが幸いだった。
味付け自体は塩だけのシンプルなものだったが、出汁の旨味が出ていて思わずおかわりしたくなった。
全てを平らげたあと出されたお茶を飲みながら、ほう、と溜息を吐く。
「胃の調子はおかしくないですか?」
「?いいえ、美味しかったです、ごちそうさまでした」
それらの一部始終を黙って見守っていたファリースが声をかける。
アキは不思議そうにファリースを見やったあと、ぺこりと頭を下げた。
それを見たファリースが、ほっとしたように笑う。
その反応に、尚もアキが不思議そうに首を傾げると、苦笑して疑問に答えてくれた。
「アキ様はこちらについてから、3日間眠り続けておられたのですよ」
どうやら大丈夫そうで安心致しました。
「へっ」
今なんと。
アキが驚いて固まると、ファリースは困った顔で微笑みながら、アーノルドをちらりと見た。
その見られたアーノルドは我関せずといった表情を崩さなかったが、ファリースが尚も強請るとアキのほうへと視線を寄こして、重い口を開いた。
「・・・お前が眠ってから1日程でここへ着いた。
それでも眼を覚まさなかったのでベッドへ寝かせたのだが、呼びかけても起きなかった」
「はぁ・・・」
つまり、移動時を含めると実際は4日ばかり眠り続けていたらしい。
起きたときに倦怠感も身体の不調も見受けられなかったので、アキにとっては寝耳に水だ。
来た早々に心配をかけてしまったようで、申し訳なくなる。
「あの、すみませんでした」
ぺこりと頭を下げる。
迷惑をかけてしまったときは、ごめんなさいだ。
いくら理不尽な状況に不満があろうとも、彼らに対して迷惑をかけたことに変わりはない。
その辺は、アキは潔いところがあった。
「いえ、アキ様が謝るようなことはございません。
突然の異世界渡りに、状況が状況ですから、心労が溜まっていたのでしょう。
それに先程も申し上げましたが、アキ様の体は今ゆっくりこちらに順応しようとしているのです。
幼い身故、その分眠りを必要としていたのでしょう」
幼い・・・うん。
ファリースの言葉は染入るようにアキの中へはいってきたが、最後の一言にちょっと思考が固まった。
本当は高校2年生なんです。
もう17歳になってるんです。
今何故か7歳くらいにしか見えませんが、もう3年もすれば成人だったんです。
ああんもうどう表わしたらいいのこのもどかしさ!
にっこり微笑まれて、アキはひきつりながら笑顔を返した。
本当のことを言ったところで信じてもらえるのかわからない。
本人であるアキですら、信じ難いくらいなのに。
内心で葛藤するアキを前に、ファリースがにこやかに告げた。
「さて、それではアキ様は少しお休み下さい。
また後程参りますから、ご説明はその時に致します」
「あ、はい」
慌ててアキが頷くのを確認して、今度はアーノルドへ向き直る。
直立不動の黒い人の名を確認するように一度呼んだ。
「アーノルド?」
「ここに居る」
「わかりました」
「えっ」
しょうがないですね、と何故か嬉しそう呟き、ファリースは止める間もなく部屋を出て行ってしまった。
わかりましたじゃないでしょおおおぉ!
アキはそれを為す術もなく見送るも、胸中でファリースを詰るのを忘れない。
何故ここに黒い人を残す。
何もすることはないでしょーよ!
ちらり、アキがアーノルドを見上げると、アーノルドもアキを見下ろしてきた。
「えっとー・・・・」
沈 黙 が 痛 い。
アキは途方に暮れ、困った顔でアーノルドを見上げることしかできなかった。