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ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
12/24

眠りのだいしょう

眼が覚めたら、既に逃げられない状況に陥っていました。











「・・・・・・・・んん~」



ふやふやと寝言を呟きながら、思う様すりすりと枕へ顔を擦り付け、惰眠を貪る。

あぁ気持ちいいなどと覚醒半分の頭で思いながら、暫しそのままの状態を享受する。

しかし、胸の中から湧き上がる、何かおかしいと感じる気持ちに揺り動かされ、渋々眼を開けた。



「・・・あれ・・・?」



ぼさぼさの頭をゆるりと巡らせ、辺りを見回し、緩慢に瞬きを繰り返す。

・・・ここは一体どこでせう。



「ベッド・・・・」



ふかふかと柔らかなベッドに寝かされていたらしい。

アキの身にはとても大きな、クィーンサイズはありそうなベッドだ。

ちなみに先程まで縋っていた枕も申し分ない柔らかさだった。

無意識に手触りの良いシーツを撫でながら、尚も辺りを観察する。

ベッドの周りをカーテンのようなものが覆っていることを見て、天蓋付きなのかと思い至る。

しかしどうやってここまで来たのかがさっぱりわからない。

アキは再び枕に凭れながら、胸中で首を傾げていると、扉が開くような音がして少し身構えた。



「起きたか」



ぱさりとカーテンを避けながら、現れた人を見上げる。

黒いかっちりとした襟付きの服はさながら軍服のようだ。

肩や胸に飾りを厭らしくなくつけマントを後ろに払ったその人は、誰あろうアーノルドだった。



「・・アーノルド、さん・・・ここはどこですか?」


ぼんやりしたまま問いかける。

脳内ではだんだん覚醒してきたせいか、冷静な自分が嫌な予感を訴えている。

しかし認められない。

誰かの口から聞くまではその主張は受け付けないとばかりに頑なな自分が叫んでいる。



「ここはエディナール・・・俺の国だ」



やっぱり・・・。


外れてくれたらよかったのにと心の底から思う。



アキはその言葉を聞いて、思わず遠くを見やる眼になった。






「アーノルド、花嫁様はお目覚めですか?」


「・・・ファリース」



アキの眼が遠くなっている間に、第三者の声が割りいってきた。

穏やかなテノールの声が、耳に心地良い。

アーノルドが顔を向けた先には、優しげな男の人が居た。


さらさらの栗色の髪を肩あたりで揃えてあり、少し垂れ気味の碧の眼が柔和な印象を与えている。

アーノルドに比べゆったりとした白い衣服を着ていて、アキにはまるで神官のように見えた。

白い肌のファリースに比べ、アーノルドが若干浅黒い色をしていることに気付いて、2人を見比べる。

改めて見て、2人とも綺麗な顔している、なんてとりとめのないことを思う。


ファリースと呼ばれた男はアキの側まで来ると、穏やかな笑顔を浮かべた。



「初めまして、花嫁様。

 ファリース・ベルウッドと申します。

 お加減は如何でしょうか?」


「えっと・・初めまして、アキと申します。

 ・・・・あの、花嫁って呼ぶのは、」


「あぁ、では、アキ様とお呼びしても?」



にっこり、綺麗に微笑まれる。

気品溢れるというのは彼のような者をさすのだろう。

言葉を遮られたことすらどうでも良く思ってしまう。

アキは気圧されたように顎を引いて、こっくりと頷いた。

様付けも本当ならやめて頂きたい。

しかし、その一言が、言えなかった。

何だかファリースには妙な迫力があるように思え、怖気づいたのだ。

・・・・というか、わざと断らせないようにしている?



「・・・身体の方は、充分寝かせて頂いたので、大丈夫です」


「それは何より。

 私はこの国で神官長を務めさせていただいております。

 同時に、王よりあなたを導く教師の役目を仰せ遣いました。

 アーノルドは必要最低限のことしかお伝えしていないようですので、私の方からご説明させて頂きます」


ですが、その前にお食事に致しましょう。


そう言われて初めて、こちらに来てから何も口にしていないことに気付いた。

それなのに、喉が酷く乾いた覚えも、空腹を訴える腹の虫の声を聞いた覚えもない。

あれだけ泣いたのに水分を摂らなくても大丈夫だったというのは、なんだか信じられない思いだった。

しかしそう思いはすれど、空腹を感じていない為食事をする気にはなれない。



「えと・・・」


「空腹や喉の渇きを感じないのは、アキ様のお身体がまだこの世界に馴染んでいないせいです。

 しかし生きていく上で食事は必要不可欠ですから、今日こそ召し上がっていただかねば」


にこっ。


・・・今日こそ、ってなに?



アキは内心で慄きながらもおとなしく従うことにした。

怯えながら頷いたアキに、ファリースから起きられるかの確認をとられ、再度頷く。

こちらへどうぞと言いながら、ファリースがカーテンの内側から姿を消した。

それに続いてベッドから降りようとアキが動くと、ひょいとばかりにアーノルドに抱きかかえられた。



「・・・あの、」


何しやがるんですか・・・。


無言で批難の眼差しを向けてみるも、悉く無視されてしまった。

何を思ってこんなことをしているのかさっぱりわからないが、こちらの意見は聞いてくれないようだ。

彼は実はロリコンなのだろうかなどと思いながらアキは早々に抵抗を諦め、アーノルドに身を任せる。

本音を言えば、外見は幼女でも高校生の中身なので、羞恥心が非常に刺激されるわけなのだが。

ベッドを抜け出した先には4人掛けのテーブルと椅子があり、そのうちの一番手近なところにファリースが立っていた。

ファリースはアーノルドがアキを抱き上げているのを見やると瞠目し、ぱちくりとひとつ瞬きをした。



「・・・・・・・アーノルド?」


「・・・・・・・・あの、えと、」


「・・・・・・・・」



居た堪れない空気にアキが身動ぎをするも、アーノルドだけが意に介していないようだった。

ファリースが無言でじとりとアーノルドを見つめるも、一向に反応を返さない為、結局は苦笑するだけに留まった。

アキとしてはこの状態に歯止めを掛けてくれるのではないかと内心期待していたものだから、その失望も大きい。

こんな羞恥プレイ、誰が喜ぶ。


アーノルドはアキを一つの椅子に座らせると、ファリースとは反対側に移動し、アキに寄り添うように立った。



「・・・・・・・・いただきます」


アキは諦めたように溜息を吐くと、両手を合わせて小さな声で呟いた。

それから大人しく食事を始める。



食欲はないが、出されたものは素朴でありながら食材の味が生きていて、とても美味しかった。



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