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ダンデライオンの花嫁  作者: 千鵺
こんにちは異世界
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閑話 その時の黒い人2

幼い少女の泣く様は、どうしてか酷く胸が痛むような気がした。










「もうお家帰るうううううぅ」



うええぇんと盛大に喚きながら、片腕で抱え上げた少女は、先程から飽くこともなく泣き続けていた。

昨日から良く泣くな、などと思いながらも、とりあえず好きなようにさせてやることにして無言を貫く。

少女の心を思えば、泣くなというのは酷であろうことがわかっていたからだ。


ある日突然、強制的に異世界に連れてこられたあげく、勝手に未来の夫まで決められてしまったのだから。


おまけにアキは神の存在に対しても非常に懐疑的だった。

自身にとっては当たり前の存在が、アキにしてみれば居るか居ないかすら不明なものだったという。

アーノルドには神の定義を説くことも、アキを納得させてやることも出来ない自分の口下手さを重々理解していた。

故に、早々に国元へ帰り付き、きちんと説明出来る人間に引き合わせようと考えていた。

しかし、気が急くのはそればかりが理由ではない。

アキはこの先元の世界には帰れないし、神の選定を覆すことも出来ない。

それをアキに伝えるつもりは毛頭ないが、彼女がそのことを認識した時、側に誰か頼りになる人間が居る必要があると思ったからだった。



「ひっく・・うっく、うぇ・・ふぐ」



ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、気付けばアキはアーノルドの肩に頭を凭れさせ、眠り込んでいた。

あれだけ泣いていれば、疲れるのは当然だ。

アーノルドは、ほとんど無意識にアキの柔らかい髪を撫でながら、ふと思ったことがあった。



アキとアーノルドが問題なく意思疎通が出来ているのは、実はその神のおかげと知ったら、彼女はどう思うのだろうか。



異世界から来る花嫁達は、大体こちらと使う言語が違うことが多い。

当然と言えばそれまでだが、むしろ一緒であることがなかった。

そのままでは出会った最初から大変な苦労を強いられしまうこともあり、事前にいくつか神の加護がついているのだ。


曰く、言葉を話す・聞く・読むことに支障がない(書き文字は何故か練習が必要となる)


曰く、こちらの世界の者からは好かれやすい(嫌われることはほぼない)


曰く、子どもは能力の高い者が生まれやすい(王族自体に天才が多い家系ではある)


・・・等々、特別な異能があるわけではないが、小さくも地味な加護があるらしい。

もともと神の選定とは名ばかりで、この世界の唯一神が別世界で気に行った人間を近くに置きたくて、自分の管轄する世界の人間と娶せようとしたのが始まりだといわれている。

そのせいか、花嫁達は総じて神の愛し子とも呼ばれる。

巻き込まれた娘たちは哀れだが、それに逆らう術は今の所なく、神の意向に従うしかないのも、所以の一つである。



ちらり、泣き疲れて寝てしまった少女の顔を眺める。


見た目に反して、アキはこちらが驚くほど大人びた口調で話す。

考え方も10歳に満たない幼子のものではないように思った。

そうかと思えば、駄々っ子のように泣く様は年相応だ。

一体、彼女はどういった経歴の持ち主なのだろう。

そんな思いがちらりと頭を過ぎる。

しかし、結局彼女がどんな人生を生きてきたとしてどうなるわけでもない。

大事なのは、これからだ。


アキを見ていると、何故か庇護欲を掻き立てられる己が居ること知った。

たった2日。

側に居た時間は、まだまだ短いものだ。

最初から、何故か己は彼女に触れることを躊躇しなかった。

そんな自身に酷く驚くが、何故か納得もしていた。


アキを守りたい。


彼女に笑っていて欲しい。


会ったばかりの少女に対して思うことではないが、アーノルドは既に自分の気持ちを決めていた。



これも神の加護の内なのだろうか。

こんな気持ちは生まれて初めて感じるものだ。

王に対して忠誠を誓っている己が、他に守りたい者を見つけるなどと。









アーノルドは腕の中ですやすや眠る不思議な少女を抱き直すと、その眼の端から零れた涙を優しく拭った。

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