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押した回数

作者: 蒔根 蔦
掲載日:2026/04/19

最近流行りのストレス解消用のおもちゃ。

つい何度も押してしまうあの感覚、ありますよね。



───あなたは



何回押したのか


覚えていますか?


※本文は完全に創作になります。

実際の地名や人物、団体とは一切関係ありません。


「なんだこれ?」


いつもの通学路。

変わらない風景、

同じ時間に歩く人々。


そんな日常に入り交じった、

落し物。


道端の隅に隠れるように、

それは落ちていた。


なにかのスイッチなのはわかるけど、

こんなもの落とす人はいるのか?


試しに1度押してみる。




……





………




何も起きない。



ほんとになんだこれ?




落し物として交番に届けるか?


いやでもこんなん落として

わざわざ交番に聞きに来る人いないだろ。




そのまま置いていこうかとも思ったけど、

どうにも気になって仕方がなくて、

つい持って帰ってきてしまった。


そのスイッチは何の変哲もなく、

ただ押せば軽い音でカチッと鳴るだけ。


何回押しても光る訳でもないし音が鳴る訳でもない。



自宅に帰ってスイッチを鑑賞していると

そのうち母が夕食の時間になったことを

知らせに来た。


「ご飯よー。」


いつものように階段のしたから飛んでくる掛け声。


……お母さんってあんな声だったっけ。



まぁいいや。


今日の夜ご飯はなんだろう、

そんな思いを抱えながら軽い足取りで

階段を駆け下りた。


リビングに降りると、

母、

父、

そして──────



知らない子供が椅子に腰掛けていた。


おそらく4、5歳くらいの子供は、

ニコニコと笑いながら

まるで家族のように俺に話しかけてきた。


「お兄ちゃん!!

エビフライだよー!」


箸を持つ手が拙いのか、

フォークで揚げたてのエビフライを刺して

俺に見えるように椅子の上に立ち、掲げてきた。


親戚の子供にあんな子いたっけ?


いやもしそうだとしても、

父さんと母さんが俺に説明しないわけが無い。


そもそも俺は一人っ子だ。


リビングの入口に突っ立っていると、

その子供は親しげに俺に駆け寄ってきて

抱きつこうとしてきた。


「やめろ!!!」


不気味さと不快感から、

咄嗟に押しのけてしまった。


後ろに尻もちをついた子供は、

わけも分からず

その目に涙が滲み泣き出してしまった。


「ちょっと!!

何やってるのよ!」


咄嗟に母はその子供に駆け寄り抱き上げる。


よく見ると、リビング中おかしなものだらけだ。


知らない子供と父と母、

それと俺が仲良く4人で写っている写真。


知らない使い古されたソファーに、

見たこともないくらい大きなテレビ。


よくよく見れば、家が少し古びている……?


何がなんだか分からずにいると、

父が俺の頬を勢いよく引っぱたいた。


「何してるんだ!

弟にこんなことをして、なぜ謝ろうとしない!

そんな子に育てた覚えは無いぞ!」


父は俺が1人息子なこともあってか

すごく甘やかしてくれていた。


父に叩かれたのは初めてで酷く混乱する。


だが父と母はそんな俺に目もくれず、

見ず知らずの子供を慰めて

落ち着かせようとしている。




なんだよ、




なんなんだよ。




意味がわからない。



わけも分からず涙が溢れて、

振り向くことなく自室へ駆け込みベットに入った。



誰だあの子供は。


なんで父も母もなんでもない顔をしているんだ。


それに知らない家具……。



ドッキリでもされているのかと思うような

信じられないことばかり。


空腹を知らせる腹の音がうるさい。



気を紛らわせるため、

布団に潜り込むとそのうち眠りについてしまった。


──────────────────────



翌日、

謎の子供は今日も家にいた。


父と母とは昨日のことで

顔を合わせないようにしながら家を出た。


通学路を歩きながら、

なんで自分がこんな目に合わなければ

行けないのかと不満を漏らす。



思えば、


スイッチを拾ってからおかしなことが続く。





学校に登校すると、

早速友人が話しかけてきた。


友人なら何か知っているだろうか。




藁にもすがる思いでスイッチの話をしてみる。


「あれじゃね?

最近流行りのストレス解消用のおもちゃでしょ?」


紙パックに入ったジュースを、

飲み干した後ストローを口に咥え

プラプラと浮かせている。


視界を遮る紙パックにイラつき、

たまらず注意する。


「おまえ、それ行儀悪いからやめろよ。」


そういうと友人は怪訝な顔をした。


「何言ってんだよ。

おまえだっていつもやってるだろ。」


「いーや、俺はそんな事しないね。」


友人は何を言っているのだろう。

というか、こいつの顔こんな感じだったっけ。


急に大人びて見えるような……?


別段この話にこだわるつもりはなかったため、

すぐ話題が切り替わる。


「あ、てか昨日貸した漫画読んだ?

帰ってすぐ読むからって

おまえ昨日部活サボってただろ?

感想聞かせろよ。」


また変な嘘をつき始めた。


「今日どうしたんだよ?

エイプリルフールじゃないぞ。

変な嘘つくのやめろよ」


そういうと、友人はまた怪訝な顔をする。


「は???

おまえ漫画借りパクする気???

さすがにそれはないって。」


いやいやまず借りた覚えがないし。


どうにも会話が噛み合わない。


それから友人とは口論になり、

その日一日中会話することはなく終わった。





──────────────────────





結局、友人とは喧嘩したまま話さず

スイッチを拾ってから3日が経過した。



拾ったスイッチはストレス解消用として、

俺のポケットの中に収まっている。



様々な考えを巡らせては、

ポケットの中でカチカチと指で軽く押していると、



今度は通学路で変な人を見かけた。



同い年くらいの不思議な格好をした少女が

同じ場所をぐるぐると回りながら

やけに足元をキョロキョロとしている。


何か落し物でもしたのだろうか。



そこで思い出した。


「あ、スイッチ────」


思わず口に出していたようで、

少女は俺に気づいて駆け寄ってきた。


「スイッチ!?

今、スイッチって言いました!?」


少女は酷く焦った様子で俺に迫ってくる。


「あ、あぁ、

3日前くらいにここでスイッチ拾ったんだけど……」


「それ!それ、私のです!

お願いします!

返していただけませんか?」


バックの底から探し出して、

少女に返すと少女は安心したように息をついた。


「良かった〜。

これ、押してませんよね?」


そう言われてドキッとする。


押しちゃまずかったのかな?

いやでも何も起きなかったし。

でも聞いてくるってことは何かあるんだろうな。


迷った挙句、後ろめたさから嘘をついてしまった。


「うん、押してないよ……。」


すると少女はにこっと笑ったあと、

耳を寄せるように言ってきた。


「拾ってくれたお礼と言ってはなんですけど、

このスイッチの秘密教えてあげます。」


神妙な面持ちの彼女は続ける。


「このスイッチ、私が開発したんですけど、

押す度にランダムで記憶が消えていくんです。

本当は嫌な記憶を消せるようにと思って

研究してたんですけど、

何故かこんなものが生まれちゃって。」


テヘヘと笑う彼女は、

最後に改めてお礼を言ったあと

引き留めようとする俺の声が聞こえないかのように

どこかへ消えていった。





……俺は、




一体、





何を忘れてしまったんだ……………

回数を覚えていようといなかろうと、

忘れてしまった記憶は戻ってこない。


だとしても、

その回数を必死に思い出そうとしてしまう。





その“押したこと“すら、


忘れているかもしれないのに。





──ここまでお読みいただきありがとうございました。

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