86.作戦会議:不信感と最深層への潜入
ハンターが銃を下げ、報酬と目的を提示したことで、BAR【プラチナ】の面々は即座にプロの仕事人の顔に戻った。
しかし、ハンターとトリトスの間の深い不信感は、作戦の火種として残っていた。
ローズはカウンターに広げたナプキンに、街の簡易的な地下構造図を描き始めた。
彼女の指が示すのは、欲望が渦巻くブラックボックスの街を支える、旧市庁舎の地下深部だった。
「さて、報酬の保証は銀の十字架ときた。教会絡みか、あるいはそれに匹敵する規模の組織か。
どちらにせよ、手ぶらじゃねぇってことだな。」
イーグルは紫煙を再び吐き出し、口元に冷たい笑みを浮かべた。
彼はタバコを指で弾き、バーボンの空グラスをアリエルの方へ滑らせた。
「アリエル、バーボンは俺が飲み干したが、契約は成立したと見ていいか?」
アリエルはハンターの目を見据えてから、静かに頷いた。
「ああ。ルールは一つ。BARのメンバーへの不当な敵対行動は、契約破棄と見なす。」
ハンターはローブの胸元にぶら下げた十字架を握りしめ、冷たく言い放った。
「俺がこのBARのルールに従うのは、奴らを狩るためだ。異界の存在を信頼しないというルールは、誰にも破らせん。
…奴らの隠れ家は、この街の『最下層』だ。廃墟となった旧市庁舎の地下に、グレイパレスの魔術師たちが魔力の『残滓』を濃縮している。」
「旧市庁舎の地下…まさに街のブラックボックスシステムの最深部。
トリトスが感じた魔力のノイズは、そこで増幅されているのね。彼らは古の力で、次元の壁を完全にこじ開けようとしている。時間がないわ。」
ローズは、描いた図面に赤い印をつけた。
ローズは全員を見渡した。情報戦略家としての冷徹な目が光る。
「イーグル、貴方はハンターと組んで地下へ潜入。ハンターの持つバンパイアへの特効兵器と、貴方の科学の暴力で物理的な排除を担当する。
ただし、トリトスへの攻撃があった場合、貴方の判断で契約を破棄して構わない。」
「了解。冷たいバーボン代のためだ。バンパイアだろうが、ハンターだろうが、俺の邪魔をする奴は容赦しねぇ。」
イーグルはコートの襟を立て、特殊装備を再確認した。
ローズは次にトリトスを見た。
「トリトス、貴方はBARからシステムを通じて、地下に流れる魔力の流れを解析する。
異界の者が関わっているなら、その魔術的な防御や次元の歪みを無力化するのが貴方の役割よ。
我々が突入する際の『結界破壊』も頼むわ。」
トリトスは静かに、しかし力強く答えた。
「承知した。この世界の安寧と知識の保持のため、その『ツケ』を精算しよう。」
最後に、アリエルがグラスを磨く手を止めた。彼の太い腕がカウンターに置かれる。
「俺はBARという砦のシステムを維持し、ローズと共に情報と防御のバックアップに回る。
イーグル、トリトス、確実にカウンターへ戻ってこい。最高のバーボンを用意して待っている。」
作戦が決まると、BAR【プラチナ】のメンバーは淀みなく動き出した。
イーグルはタバコをくわえ直し、コートの裾を払う。ハンターは警戒心を露わにしたまま、イーグルの背中を追って店の扉へと向かう。
カランカラン!
カウベルが再び鳴り響き、「冷徹な実行役」と「不信の狩人」の二つの影は、欲望と危険が渦巻くブラックボックスの闇の中へと消えていった。
BARの中には、再びジャズと、静かにシステムを管理し始めたアリエルとローズの気配だけが残った。




