76.トリトスの孤立:魔術戦と図書館の怒り
エレベーターがイーグルを乗せて上昇する轟音の直後、地下通路にはトリトスと、三人組のローブの魔術師の殺気が満ちた。
「あの本はどこだ!魔族め!」
魔術師の一人が叫ぶ。
彼らは『星渡の古書』の行方を最優先しており、トリトスは彼らの目的と脱出ルートを断つための障害物でしかなかった。
「貴様らのような外道の手に、古き知識は渡せぬ。」
トリトスは紫色の鱗と二本の角を持つ魔王の姿で、廊下の中心に仁王立ちになった。
彼は、イーグルが残した監視欺瞞デバイスの残骸を足蹴にした。
「残念ながら、本は既に移動中だ。貴様らが追いつくことはない。」
魔術師たちはトリトスの言葉を信じなかった。彼らは本がトリトスの魔力結界の中にあると決めつけ、三方から一斉に魔術を放った。
ドォォン!
廊下の空間が爆発し、熱風と魔力の奔流がトリトスを襲う。
一人は火炎の奔流を、一人は氷の槍を、そして残る一人は精神干渉の呪文をトリトスの意識へと直接叩き込んだ。
トリトスは動じなかった。彼は魔力の奔流の中心に立ち、皮膚を覆う鱗と、魔王の血が持つ固有の防御魔術でそれらの攻撃を受け止めた。
彼の周囲のコンクリートの壁は破壊され、廊下が揺れたが、トリトスの身体には致命的な傷はつかない。
しかし、精神干渉の呪文だけは別だった。
「グッ!」
トリトスは一瞬苦悶の声を上げた。
その呪文は、トリトスの人間を装う精神的な抑圧を狙っており、彼の中の「魔族としての本質」を強制的に解放させようとしていた。
「この図書館の結界と、貴様らの呪文が、我の力を引きずり出そうとしているな……厄介な。」
トリトスは呻きながらも、すぐに反撃に転じた。
彼は両手を広げ、床に描かれていた古代文字の魔術円を、紫色の魔力で上書きし始めた。
「貴様らと違い、我は結界の構造を理解している!借りるぞ、この『知識の檻』の力!」
トリトスは結界の力を逆利用し、廊下の両側の壁を液状化させた。
液状化したコンクリートは瞬時に硬化し、魔術師たちの周囲に紫色の魔力でできた檻を作り上げた。
「何だと!?この図書館の防御システムを勝手に使うな!」
魔術師たちは驚愕し、檻を破壊しようと魔術を連発するが、トリトスが逆利用した結界の力は強固だった。
トリトスは檻に閉じ込めた魔術師たちを無視し、即座に身を翻して脱出ルートを探し始めた。
エレベーターは使えない。残るは階段だが、そちらも魔術師の増援が来ている可能性が高い。
その時、図書館の都市システムがトリトスの行動に反応した。
『警告。高位魔力源を確認。隔離プロトコル起動。』
図書館全体の照明が赤く点滅し始め、上階から分厚い鋼鉄のシャッターが自動で降りてくる音が響いた。
「図書館のシステムそのものが、我の魔力を『知識を破壊する存在』と認識し始めたか!」
トリトスがエレベーターホールを抜け、非常階段の入り口にたどり着いたとき、目の前の通路は完全に鋼鉄の壁で封鎖された。
彼の周囲の空気は、加速度的に魔力を吸収する抑制結界へと変質し始めた。
トリトスは、『魔王の血』による莫大な魔力を持ちながらも、『夜霧と法の街』グレイパレスのシステムと、図書館の強力な魔術的防御という二重の危機に囲まれ、身動きが取れなくなってしまった。




