75.イーグルの孤立:屋上への突破
緊急上昇を始めたエレベーターの中で、イーグルは急速に冷静さを取り戻した。
トリトスの魔力炸裂音が遠ざかる中、彼が持っているのは、『星渡の古書』という高額な報酬そのもの、そしてライフルと特殊な弾薬だけだ。
「魔王の野郎、手間のかかる置き土産を残しやがって。」
イーグルはコートの内側でライフルを再調整し、弾倉をセットした。
彼の目的地は、転送ゲートが待つグレイパレス郊外の廃墟へと戻るための「アーク・ゲート」の起動地点、すなわち図書館の屋上だ。
ガタンッ!
エレベーターが最上階で停止した瞬間、扉が開く前に、イーグルはエレベーターの制御盤に仕掛けていた小型の電磁パルス(EMP)発生器を起動させた。
バチバチッ!
エレベーターホールの照明が一瞬にして消え、警報システムが断続的なノイズを上げ始めた。
「よし、これで数秒は稼げる。」
イーグルは扉を蹴破り、最上階のホールに飛び出した。そこは、館長の執務室や貴重な美術品が展示されたエリアであり、警備が最も厳重な場所だ。
警備員たちが既に異変に気づき、ホールに集結し始めていた。
彼らは単なる制服警官ではなく、強化装甲を身につけたプロのPMC(民間軍事会社)の人間だ。
「侵入者だ!武装しているぞ!撃て!」
警備員の一人が叫び、トリトスがエレベーターに仕掛けたEMPで完全に機能停止していない光学センサーが、イーグルの姿を捉えた。
イーグルは即座にライフルを構え、警備員の足元に向けて特殊な閃光弾を撃ち込んだ。
ドォン!
爆音と共に強烈な光がホール全体を包み込み、警備員たちは視界を奪われて叫び声を上げた。
「くそっ、目潰しだ!」
その一瞬の混乱を利用して、イーグルは警備員たちを避け、屋上へと続く非常階段を一気に駆け上がった。
彼の背中には、厳重な魔力結界に包まれた『星渡の古書』が重くのしかかっている。
イーグルが非常扉を蹴破って屋上に出たとき、グレイパレスの街並みは夜明けの夜霧に包まれていた。
屋上には、転送ゲートの担当者と、彼を守るように武装した組織の工作員が二人、既に待機していた。キャンピングカーの荷台に隠されていたアーク・ゲートは、起動準備が完了し、青白い光を帯びて回転していた。
「無事か!」
フードを被った担当者がイーグルに駆け寄った。
「報酬は確保した。早く起動させろ!」
イーグルは本の入った結界を担当者に投げ渡す。
担当者はその強大な魔力に怯むことなく、即座に特殊なケースに本を収めた。
その時、屋上への扉が再び開き、強化装甲の警備員が二人、ライフルを構えて飛び出してきた。
「侵入者を確保しろ!射殺許可!」
「チッ、しつこい!」
イーグルは躊躇なく、警備員に向けてライフルの引き金を引いた。
彼の銃弾は、装甲貫通能力を持つ特殊な合金製であり、PMCの強化装甲を容易く打ち抜いた。
ドスッ、ドスッ!
二人組の警備員はうめき声を上げて倒れ伏した。
「ゲートを起動しろ!急げ!」イーグルは叫んだ。
担当者は慌ててゲートの起動キーを差し込んだ。
アーク・ゲートの光が屋上を満たし、強烈な風が発生する。
「トリトスは!?」イーグルは一瞬、図書館の下層階にいる相棒のことを思い出した。
「魔族の方はどうなってる!?」
担当者は冷徹に答えた。
「我々の仕事は本の回収のみです。あの魔族は、時間を稼ぐための捨て駒と見なされています。
生存確認は不要です。」
イーグルは怒りで顔を歪ませたが、時間はない。
転送ゲートの光は最大強度に達していた。
「クソッ、ふざけやがって……!」
彼はライフルを構えたまま、ゲートの光の中へと飛び込んだ。
グオォォォ……!
次の瞬間、屋上にはイーグルと『星渡の古書』の姿はなく、ただ倒れた警備員と、起動し終えた転送ゲートだけが残されていた。




