73.魔王の血と古き知識
トリトスは人間の皮を脱ぎ捨てた。
「無駄だ、人間よ。貴様らの知識欲は、いつだって破滅を招く。」
彼の身体が激しく膨張し、皮膚は瞬時に紫色の硬質な鱗へと変質する。
二本の角が額から突き出し、青い髪が逆立った。
緑色に光る瞳には、一瞬で部屋の防御結界の構造、ローブの魔術師の魔力の流れ、そして『星渡の古書』が放つ途方もない力が全て映し出された。
ローブの魔術師は、トリトスの突然の変身と、空間を満たす魔王の血の力に、初めて動揺の色を浮かべた。
「魔族!?しかも高位の……なぜこんな場所に!」
魔術師は叫びながら、床の円形から放たれた深紅の光を自身の周囲に集め、強固な防御結界を形成しようとした。
「遅い!」
トリトスは先制攻撃として、最も強力な「結界破壊の呪文」を放った。
「万象の調律者よ、歪みを削げ!(ディストーション・スクラップ!)」
トリトスの両手から、部屋の次元そのものを振動させるような紫色の波動が放たれた。
それは、単なる物理攻撃ではなく、魔術師が築いた防御結界の「周波数」をピンポイントで打ち消すための、緻密な魔力操作だった。
ドゴオォン!
衝撃音と共に、床の円形から立ち上がった深紅の光が、ガラスのように砕け散った。
魔術師の防御結界は、トリトスの攻撃を前に、何の抵抗もできずに無効化された。
ローブの魔術師は結界の崩壊によって吹き飛ばされ、部屋の壁に叩きつけられた。
「グゥッ……馬鹿な!結界を……一瞬で!」
防御を失った魔術師は、急いで次の魔術を唱えようと手をかざしたが、イーグルがその隙を見逃さなかった。
「お前の相手は、俺だ!」
トリトスの指示に従い、銃を構えるのを控えていたイーグルが、懐からワイヤーガンを引き抜いた。
シュッ!カチン!
ワイヤーガンは正確に魔術師の腕を射抜き、壁に固定した。魔術師は動くことも、魔術を唱えることもできなくなった。
「チッ、貴様ら……連携していたのか!」
トリトスは魔術師を無視し、部屋の中央にある『星渡の古書』が置かれた台座に近づいた。
その本から放たれる魔力は、触れる者の精神を揺さぶるほどに強大だった。
トリトスは慎重に手を伸ばしたが、本に直接触れることは避けた。
組織からの依頼は「絶対に本を開かないこと」、そしてアリエルからの裏の「ツケ」は、「世界が終わるのを止めること」だ。
トリトスは、本を台座から持ち上げるために、微細な魔力を使って本の下に紫色の魔力の台座を作り出し、ゆっくりと本を宙に浮かべた。
「イーグル、回収完了だ。脱出するぞ!」




