71.ローブの魔術師の待ち伏せ
イーグルはワイヤーガンを取り出した手をユニフォームの懐に戻した。
トリトスの分析が正しければ、3分という制限時間の中で二重の防御を破るのは、成功率が低すぎる。
「待てよ、トウキ。破壊は最終手段だ。
1000万クレジットを無駄にするわけにはいかねぇ。」
イーグルは再びモップを手に取り、静かに清掃を再開した。
その動きは、本物の清掃員よりも手際よく、そして警戒心に満ちていた。
「あの扉の認証は、純粋な魔力か、ローブの連中の生体認証って話だったな。
マーサは、夜中にそいつらが出入りしてるって言ってたぜ。」
トリトスは「賢明な判断だ」と静かに評価し、清掃用のバケツを引いてイーグルの隣に並んだ。
「その通りだ。組織が我々のような裏の人間を使うのは、ローブの研究員たちが図書館の権威を代表するわけではないからだろう。
彼らは裏でこの古書を利用している魔術師たちだ。」
トリトスは、監視欺瞞デバイスの効力が切れないよう、微細な魔力をデバイスに流し込み続けた。
「奴らが扉を開けるのを待つ。奴らが防御を解除する瞬間こそが、我々が動く唯一のチャンスだ。」
二人は完璧な清掃員を装い、「禁断の書庫」の扉周辺の古文書の埃を丁寧に払い続けた。
耳に入ってくるのは、JAZZではなく、図書館特有の静寂と、古紙が持つ不気味な気配だけだった。
早朝の光が窓から差し込み始め、図書館が開館に向かうにつれて、外部の音がわずかに増してきた。
イーグルが神経を張り詰めたまま待機を始めてから、およそ15分が経過した頃だった。
ゴトッ。
微かな、しかしはっきりとした物音が通路の奥から聞こえてきた。
イーグルはモップを止めずに、音のする方を睨みつけた。
「来たぞ。」イーグルが小声で呟いた。
通路の奥から、フード付きの黒いローブを纏った人影が一人、ゆっくりと姿を現した。そのローブの裾からは、ブーツの先端だけが見えている。
ローブの人物は警戒することなく、まっすぐに「禁断の書庫」の扉へと近づいてきた。
トリトスは魔力の流れを注意深く探った。
「奴の魔力は、非常に洗練されている。単なる研究員ではない。警戒を怠るな。」
ローブの人物は扉の前に立つと、立ち止まった。
その袖から、銀色の鎖に繋がれた古びた鍵が取り出され、鍵は認証パネルの下にある鍵穴に差し込まれた。
カチリ。
鍵が物理的なロックを解除した瞬間、ローブの人物は認証パネルの黒曜石に手をかざした。
その手から、強烈ではないが、純粋で淀みのない魔力がパネルに流れ込む。
認証パネルに刻まれた星辰の紋様が、眩く青く光を放った。
「今だ、イーグル!認証が完了する前に、奴を無力化し、鍵を奪え!」
トリトスの指示が飛ぶのと、イーグルが動くのは同時だった。
イーグルは手に持っていたモップを捨て、清掃ワゴンの陰から飛び出した。
彼は音を立てないように瞬時にローブの人物の背後に回り込むと、コートの下から特殊なスタンガンを取り出し、その首筋に叩きつけた。
バチッ!
「ぐっ……!」
ローブの人物は声にならない呻きを上げて、前のめりに倒れ込んだ。
その手から古びた鍵と、認証パネルから外れていない右手が離れる。
イーグルは即座にローブの人物を脇に抱え、清掃ワゴンの陰に引きずり込んだ。
そして、ローブの人物が倒れた場所にあった鍵を拾い上げ、トリトスに渡した。
「扉は開いたのか?」
トリトスは鍵を受け取りながら、扉を確認した。
青く光っていた星辰の紋様は、認証が中断されたことで点滅している。
「鍵は開いたが、完全にロックが解除されたわけではない。
あのローブの魔術師の体が、認証を完了させるための『生体鍵』となっている。
奴が意識を失ったことで、システムが停止しかけている。時間がない!」




