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70.幽霊区画の清掃と結界の分析

イーグルとトウキ(トリトス)は、清掃用ワゴンを引いて「特別閲覧室」に足を踏み入れた。

ここは一般の閲覧エリアとは一線を画し、天井まで届く重厚な書架が迷路のように並んでいる。

空間全体が古文書特有の黴臭さと、空気が張り詰めたような静けさに満ちており、マーサが言った「幽霊区画」の異様な雰囲気を纏っていた。

「チッ、本当に空気が重いな。こういうのはバーボンで流し込むわけにもいかねぇし、厄介だ。」

イーグルはそう悪態をつきながらも、ワゴンからモップとバケツを取り出した。

彼は清掃員になりきり、通路の隅から床を拭き始めた。もちろん、彼の目的は床の埃ではなく、周囲の警戒レベルを測ることだ。

一方、トリトスは静かに、アリエルから受け取った監視欺瞞デバイスに触れながら、周囲の魔力の流れを探っていた。

「ふむ……この図書館全体を覆う結界は、知識の保管というよりも、『知識の漏洩阻止』を目的としている。

我の魔力は常に拡散され、吸収されようとしているな。

魔王の血を持つ者にとっては、まさに居心地の悪い神殿だ。」

トリトスはモップを動かすフリをしながら、イーグルに小声で報告する。

「このフロアの魔術的な防御は、空気中に存在する。目に見えないが、特定の周波数の魔力を持つ者が侵入すれば、即座にアラートが鳴る構造だ。

我々が清掃を装うのは正解だ。物理的な警備員より、魔術師が配置した結界の方が厄介だ。」

イーグルはモップを動かしつつ、彼の目だけが奥の壁を睨んでいた。

古文書が途切れた、その最も奥まった場所に、マーサが言っていた「禁断の書庫」の重厚な鉄扉があった。

その扉は鉄製でありながら、表面に複雑な星辰せいしんの紋様が刻まれ、中央には黒曜石のような素材でできた認証パネルが埋め込まれていた。

「あれが目的の扉か。技術と魔術の両方で守ってるな。」

「ああ。鉄扉には強力な沈黙の呪文が施されており、内部の音や魔力の振動は完全に遮断されている。

そして、認証パネルは、純粋な魔力、あるいは特定の生体情報を要求している。イーグル、あの扉を開けるのは、貴様の持っている偽造IDでは無理だ。」

「だろうな。じゃあ、俺の出番は扉を爆破する時ってわけか?」

トリトスは「待て」と静止した。

「扉を破壊すれば、このフロアの結界の魔力周波数が乱れ、図書館全体のアラートが発動する。組織の依頼は、『本を開かずに回収すること』だ。破壊は最終手段。」

トリトスは、モップを動かし、無言で鉄扉に近づいていく。彼が扉から数メートルの距離まで来たとき、微かに空気が揺らぐのを感じた。

「やはり、扉の前には不可視の魔力トラップが敷かれている。触れれば、瞬時にこのフロアの警備が起動するだろう。」

イーグルは清掃の演技を続けながら、ポケットに手を入れ、特殊な小型ジャミングデバイスのスイッチを入れた。

「なら、お前の魔術と、俺の科学の暴力で、その扉の防御を一時的に無効化する。

トウキ、その魔力トラップの周波数を読み取れ。俺がその周波数帯のシステムをノイズで埋めてやる。」

トリトスは頷いた。イーグルが動けば、彼が持つ魔力欺瞞デバイスはすぐに効力を失う。時間との勝負だ。

「時間はどれくらいだ?」

「最高で3分。その間に扉を開け、本を手にし、この場を離れる必要がある。」

イーグルは、モップを投げ捨て、清掃員とは思えない手際でユニフォームのファスナーを開け、内部に隠していた特殊なワイヤーガンを取り出した。

「3分で十分だ。さあ、トウキ。1000万クレジットとバーボン10年分の価値がある『星渡の古書』を見せてもらおう。」

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