68.夜霧と法の街、グレイパレス
イーグルとトリトスはBAR『プラチナ』の裏手で、組織が手配した転送ゲート(アーク・ゲート)の担当者と合流した。
それは、古びたキャンピングカーの荷台に隠された、異様に光る金属の輪だった。
「準備はよろしいですか、プロフェッショナルの方々。」
ゲート担当者は顔のない黒いフードを深く被っており、声には何の感情もなかった。
「とっとと済ませろ。」
清掃員のユニフォームに着替えたイーグルは悪態をつきながら、アサルトライフルを分解してユニフォームの下に隠し持った。
トリトスは相変わらずの人間の姿で、アリエルから受け取った監視欺瞞デバイスを服のポケットに収めた。
光の輪が回転し、眩い青白い光が二人の全身を包む。次の瞬間、彼らは冷たい夜風と湿った土の匂いに包まれて、グレイパレスの郊外に立っていた。
そこは、コンクリートの廃墟が並ぶ荒涼とした場所だった。
「チッ、一瞬で移動か。便利なもんだな、科学の力ってのは。」
イーグルは地図を確認し、北の空を見上げた。
夜霧の向こうに、摩天楼のシルエットが不気味に浮かび上がっている。
「トリトス、行くぞ。このまま地下鉄の路線に乗る。図書館の開館は朝だ。それまでに潜入準備を整える。」
二人が図書館の近くまで移動したのは、夜霧がわずかに晴れ始めた早朝だった。
グレイパレス中央図書館。その巨大な建物は、古典的な石造りの威容を持ちながら、最新の光学センサーと高周波バリアで厳重に守られていた。
知識を重んじるグレイパレスでは、図書館は銀行や軍事施設に匹敵する警戒レベルにある。
イーグルは清掃員のユニフォームの袖をまくり、偽造IDカードを手に、裏口の搬入口へと近づいた。
トリトスは、警戒システムの反応を探るため、身体に微かな魔力を流し込む。
「イーグル、気をつけろ。この図書館のセキュリティは、電子的なものだけではない。魔術的な結界が、物理的な侵入者だけでなく、精神的な干渉までも拒絶している。」
「俺の専門外だ。だが、物理的な鍵は、いつもこのカードが解決してくれる。」
イーグルが裏口の認証リーダーに偽造IDをかざすと、システムは一瞬「アクセス拒否」の赤ランプを点滅させた。
ピ、ピ、ピ…(アクセス拒否)
「どういうことだ?」イーグルが舌打ちをする。
トリトスは即座に、ポケットの監視欺瞞デバイスを取り出し、微かに魔力を込めてリーダーに向けた。デバイスが作動すると、認証リーダーのランプが再び点滅し、青に変わった。
ピポッ、カシャン!(アクセス承認。ロック解除)
イーグルはトリトスを睨みつけた。
「おい、まさか俺の偽造IDが使えなかったのは、お前の魔王の血のせいか?」
「我のせいではない。システムが、貴様の荒れた精神波を『不審な人物』として感知したのだ。
このデバイスは、物理的なIDをシステムに再認識させるための精神波のマスキングも兼ねている。」
トリトスはそう言って、デバイスを再びポケットに収めた。
「とにかく、時間がない。夜明けと共に本物の清掃員が出勤してくる。行くぞ、イーグル。」
イーグルは「チッ」と一つ舌打ちし、トリトスと共に裏口の狭い通路へと潜入した。彼らの背後で、重厚な鉄扉が音もなく閉まった。




