64.BAR『プラチナ』での報告
夜が明けきらぬ頃、BAR『プラチナ』の扉が開き、イーグルとトリトスが戻ってきた。
店内は相変わらず薄暗く、バーテンダーのアリエルがグラスを磨き、カウンターには身を潜めていたシスターダリアが不安げに座っていた。
「よう……。戻ったか。随分な裏仕事だったようだな。」
アリエルは磨いていたグラスを置き、静かに言った。
「うむ。手間がかかったが、依頼は完了したぞ、シスターダリアよ。」
トリトスは人間の姿に戻り、カウンターに座るダリアに向かって話した。
イーグルは片手を上げ、そのままバックヤードへと向かう。
「待て、イーグル。そのバッグはなんだ?」
トリトスが怪訝な顔で尋ねたが、イーグルはニヤリと笑った。
「ああ、報酬の準備だ。バーボン一杯で悪魔退治なんてやってらんねぇだろ。ちょっと市場で用事がある。すぐ戻る。」
イーグルはそう言い残し、ルビーが詰まった重そうなバッグを肩に担いで、店の裏口から姿を消した。
イーグルが去った後、トリトスはシスターダリアに今回の顛末を説明した。
「聖ホワイトクリスタル教会を蝕んでいたのは、ジーク神父に憑依していた高位の悪魔だ。
奴は神父の地位を利用し、教会の裏金と信者の信仰心、そして有権者の罪悪感を魔力の糧とし、地下でおぞましい研究をしていた。」
ダリアは震える声で尋ねた。
「ジーク神父様は…?そして、地下の研究とは?」
「神父の魂は解放された。奴は意識不明の状態で元の寝室に戻し、お前の訴えは過度の疲労による妄想として処理されるだろう。
我々が、教会に強盗と火災の痕跡を残したことで、彼の地位は失われるが、命は助かった。」
トリトスは一息つく。
「地下の研究施設は、人間と動物を掛け合わせたキメラを作る外道な実験場だった。
それは全て浄化し、消し去った。もう教会は、悪魔の金脈ではない。
貴様を追っていたスーツの男たちも、金が途絶えれば散るだろう。」
ダリアは両手で顔を覆い、安堵と恐怖の入り混じった嗚咽を漏らした。
「神よ、ありがとうございます…!お願いします、トリトス様、この1万2000クレジットを。どうか受け取ってください。」
ダリアが財布から取り出した札束を差し出すと、トリトスはそれを受け取らずに言った。
「その金額は、既に賭けで支払われている。だが、イーグルには別途、多大な手間賃が発生している。それは奴が戻ったら受け取ってやってくれ。」
それから間もなく、カランカラン!とカウベルが鳴り、イーグルが扉を開けて戻ってきた。
彼の肩からは、ルビーが詰まったバッグは消えていた。代わりに、彼のコートの内ポケットは厚みを増していた。
イーグルはルンルンとした様子でカウンターに座り、アリエルに声をかけた。
「よぉ、アリエル。バーボン、ロックで。今日は奮発して最高級のボトルを開けてくれ。」
アリエルはため息を付きつつ、了承の意を示す。
トリトスは呆れたように尋ねた。
「イーグル、ルビーの塊はどうした?」
イーグルはタバコに火をつけ、紫煙を吐き出しながら、カウンターに分厚い札束を叩きつけた。
その額は、シスターダリアが持っていた1万2000クレジットとは比べ物にならない。
「ブローカーに叩き売ってきた。この赤いガラス玉は、俺たちの手間賃だ。
トリトス、お前の賭けで救った魂の数と、俺が手に入れた金の数を合わせれば、今回の依頼の総額は、1万2000クレジットってところか?」
イーグルは札束を指で叩き、救済という言葉を嘲笑うように言った。
「どうだ、シスターダリア。これだけあれば、ジーク神父様の治療費も賄えるし、アンタも数年分の安息が買えるぜ。」
シスターダリアは、目の前の巨額な金と、二人の男が成し遂げた非人道的な救済の構図を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
トリトスは、金と魂という二つの異なる価値観が交錯したこの夜の結末に、静かに笑みを漏らした。
「救済とは、確かに手間のかかるものだな。」




