56. 全ての契約の履行:BARプラチナでの再集合
翌々日の夜。激しい雨は小降りになり、BARプラチナには湿った外の空気とは裏腹に、暖かなジャズとウィスキーの香りが満ちていた。
カウンターには、ローズとトリトス、そして時間差でアリエルとイーグルが合流した。
全員の表情には、長い夜を生き抜いた者特有の疲労感と、任務を完遂したプロフェッショナルとしての充足感が浮かんでいた。
報告:『虹色のムーンストーン』
アリエルは、カウンターの隅に静かに零度シールドケースを置いた。ケースの表面には、山脈での激しい脱出の痕跡がわずかに残っている。
「エメラルドマウンテン。採掘完了だ。
ティアマトの監視システムは緻密だったが、通気口から潜入し、巡回隊と接触する寸前に離脱した。」
アリエルはケースを開ける。
中には、特殊なゲルに包まれた状態で、手のひら大の『虹色のムーンストーン』が鎮座していた。
その繊細な輝きは、微細な衝撃も受けずに回収されたことを証明していた。
「無傷だ。衝撃、光、全てから守り抜いた。
報酬は約束通り、ティアマトからの情報を付加するよう依頼主に伝えておけ。」
ローズは満足げに頷いた。「完璧ね、アリエル。」
報告:『奈落の果実』
続いて、イーグルが細長い保護筒をカウンターに滑らせた。
彼は紫煙をゆっくりと吐き出し、トリトスにウィスキーを要求した。
「ネイビーフォレスト。アイザック・ゲイルのセキュリティは想定通り。
金庫は破ったが、厄介なことに二点の贋作が仕込まれていた。」
イーグルは保護筒を静かに開け、中から慎重に巻かれた絵画を取り出す。
「だが、本物を見抜いた。
ミスターフラットマンが隠した微細なサインを解析し、他の二点を排除した。
回収時に警報は鳴らしていない。痕跡もなし。」
トリトスが琥珀色のウィスキーをイーグルのグラスに注ぐ。
イーグルはそれを一気に飲み干した。
「流石ね、イーグル。贋作を掴まされれば、報酬はゼロ。その判断力と技術力に乾杯だわ。」
ローズは満足げだった。
報告:『ミルストンの遺産』
最後に、ローズがトリトスに視線を向けた。トリトスは、地下の保管庫から持ち出してきた非接触回収ポッド『アンフォラ』をカウンターの中央に置いた。ポッドの表面は深海の圧力に耐えた証として、微かに湿っていた。
「我らが任務、『ミルストンの遺産』の回収も完了した。」
トリトスは冷静に報告した。
「旧ディープサファイア研究所の格納庫より、遺産を回収。
正体は古代技術の設計図が記された金属プレートで間違いない。
深度500メートルでの作業中、研究所の残存防衛システムと遭遇したが、ローズがそれを排除し、我は非接触ポッドで設計図を無傷で保護した。」
ローズは自らの役割を付け加えた。
「トリトスの能力は期待以上だったわ。
水中での解析とポッドの運用は見事よ。私の『契約の履行』も、深海の脅威に対応するには十分だった。」
トリトスは、古代技術の設計図を収めたポッドを静かに見つめていた。
その表情には、単なる任務完了以上の、何か深遠なものを見た者の静けさが宿っていた。
成功の乾杯
三つの依頼は、それぞれ異なるプロフェッショナルな技術を要し、全ての障害を乗り越えて成功裏に完遂した。
ローズは立ち上がり、ボトルを持ち上げた。
「結果は、パーフェクトよ。
BARプラチナの新しいビジネスパートナーたちへ。この成功に、心から感謝するわ。」
彼女は四人分のグラスにウィスキーを満たすと、それを掲げた。
「全ての契約の履行と、高額報酬に。」
四つのグラスが、静かなBARの中で力強く打ち鳴らされた。
外の雨は止み、夜空には雲の切れ間から、微かに月が顔を覗かせていた。
BARプラチナには、新たな成功の確信と、次なるミッションへの期待が満ちていた。




