表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/123

53. 虹色の収穫と迫る影(アリエル)

アリエルは、自分の呼吸すら邪魔だと感じた。

超振動カッターの振動は微細だが、この鉱脈の静寂の中では、彼の心臓の鼓動と同じくらい大きく感じられた。

彼はスーツの内蔵ライトをさらに絞り、ムーンストーンの周囲の岩盤にカッターの刃を当てた。

カッターは石英や黄鉄鉱などの硬い鉱物を、まるで粉砂糖のように削り取っていく。

「一瞬たりとも、集中を欠くな。」

ムーンストーンは、わずかな衝撃で輝きが失われるという。

それは単に美術的価値が損なわれるだけでなく、依頼の失敗を意味した。

アリエルは、何時間も続くかのような数分間、完全に無の境地に入り、カッターを操り続けた。

彼の指先の感覚だけが、デリケートな宝石と周囲の岩盤との境界線をなぞる唯一のガイドだった。

静かに、そしてゆっくりと、カッターはムーンストーンの周囲を円を描くように掘り進める。

深部の岩盤から、宝石の接地面が徐々に剥がれていく。

そして、カチン、というごく小さな金属音と共に、ムーンストーンは完全に岩盤から切り離された。

アリエルは一瞬、息を止めて、その淡い虹色の輝きを暗視ゴーグル越しに見つめた。

光が失われることはなかった。成功だ。

彼は即座に腰に下げた零度シールドケースを取り出した。

ケース内部の特殊なサスペンションが展開し、アリエルは慎重にムーンストーンをそのゲル状の保護材の中心にそっと置いた。

ケースの蓋が閉まると、内部は完全に光と衝撃から遮断された。

ムーンストーンは、最も安定する低温環境の中で、静かに眠りについた。

その瞬間、アリエルのゴーグルに接続された盗聴機能が、わずかなノイズを拾った。

『…本部、旧鉱脈エリアに異常な湿度変化を感知。通常の地下水ではありえない。巡回隊、直ちに詳細を調査せよ。』

ティアマトは、単純な熱や音だけでなく、アリエルの潜入が引き起こした通気口からの空気の流れの変化や、潜水スーツが持ち込んだ湿度の微妙な変化を捉えたのだ。

「…チッ、抜かりがないな。」

アリエルは舌打ちした。巡回隊がこちらに向かっている。時間はほとんどない。


彼は来た道を辿り、通気口へと急いだ。

足音は消しているが、緊張の度合いが上がり、心臓が激しく脈打つ。

横穴から通気口の垂直なシャフトに取り付いた瞬間、通路の奥から、複数のライトの光が揺らめくのが見えた。

ティアマトの巡回隊だ。彼らがアリエルのいる地点に到達するまで、せいぜい30秒といったところだろう。

アリエルはクライミングギアの巻き上げ速度を最大にし、急いで上昇を開始した。

金属が擦れる僅かな音も、外の激しい雨音にかき消されることを信じるしかなかった。

上へ、上へ。

通気口の格子まであと数メートルというところで、下から怒鳴り声が響いた。

「誰かいる! 侵入者だ! 確保しろ!」

アリエルは最後の力を振り絞り、通気口の出口を突き破って外の雨と霧の中へ飛び出した。

彼は音もなく格子を元の位置に戻し、周囲の茂みの中に身を隠した。

下からは、金属格子の裏側から警備員がライトを当て、中の状況を確認しようとする音が聞こえる。

格子が外されていることに気づけば、追跡はすぐに始まるだろう。

アリエルはシールドケースを抱え、一瞬の躊躇もなく、雨に打たれる山肌を全速力で駆け下り始めた。虹色のムーンストーンは無事だ。あとは、この山から姿を消すだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ