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32.イシュタルの影

アリエルはタブレット端末を手に街の裏通りを歩いていた。

そこに写るイシュタルの顔を、彼は食い入るように見つめる。

燃えるような赤い髪に、冷たい嘲笑を浮かべた男。

イブは彼を「この街で最も危険な男」だと言った。

その言葉の重みが、アリエルの背中に張り付くようだった。

彼はまず、イシュタルのアジトの候補地を一つずつ潰していくことにした。

最初は、古い倉庫街の奥にある廃工場。情報によれば、夜な夜な不審な出入りがあるという。

アリエルは工場の裏手に回り、隠密行動に移った。錆びついた鉄扉に耳を当てると、中から微かに機械の動作音と、複数の男たちの話し声が聞こえてくる。

アリエルは身を潜め、中の様子をうかがう。

すると、数人の男たちが大きな機械の周りで作業をしていた。

彼らの手には、奇妙なガラス瓶が握られている。

その中には、黒い花から抽出されたと思しき、不気味な紫色の液体が入っていた。

「これで、今週分は完成だ。『イシュタル様』もご満悦だろうぜ」

男の一人が下品に笑い、他の男たちもそれに同調する。

彼らはまさしく「黒い花」の密造者だった。

しかし、アリエルは彼らが今回の依頼の核心ではないことを直感的に悟っていた。

彼らはただの末端、本物の工場は別の場所にあるはずだ。

アリエルは彼らの動向をさらに探るべく、気配を消して倉庫の中へと侵入した。

すると、男たちが持ち場を離れ、休憩に入る。

その隙に、アリエルは彼らが作業していた機械を調べた。機械の側面には、小さな文字で記されたラベルが貼られていた。

そこには、製造元の社名と、ある施設の住所が書かれている。

アリエルの目がその住所に釘付けになった。

それは、ミルストンが所有していた施設の住所だ。そして、そこにはもう一つ、意味深な文字が記されていた。

「研究室D-7」

アリエルはすぐに、この工場が「黒い花」の最終製造段階を担う場所であることを理解した。

そして、この機械は、密造の初期段階である研究室と繋がっている可能性が高い。

「イブの言った通りだ。イシュタルは、ミルストンの遺産をそのまま使っている…」

アリエルは小さく呟き、静かに工場を後にした。

彼は再びタブレットを開き、イブにメッセージを送る。

「アジトの場所がわかった。ミルストンの旧研究施設だ。イシュタルは、そこで『黒い花』を製造している」

アリエルからの報告に、イブは即座に返信してきた。

「よくやったわ、アリエル。しかし、イシュタルはただの密造者じゃない。彼は罠を仕掛けてくるはずよ。決して、単独で乗り込まないで」

イブの警告は、アリエルの心に響いた。だが、彼の心はすでに決まっていた。彼の記憶が正しければ、「研究室D-7」は、かつて自分が訓練を受けていた場所の一つだ。そして、そこには、過去の自分を消し去るための、ある秘密が隠されている。

アリエルは、今度は一人で、過去と対峙するために、闇の奥へと向かう。

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