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263. 【帰還と保留の契約】

最下層の「心臓」を止めたイーグルとネロは、再び狭い産道を遡り始めた。

行きとは違い、そこには静寂ではなく、確かな「収穫」の音が響く。道中に転がっていた斑狼や狂暴化したラビットマンの死体を、イーグルは手際よく一箇所にまとめていく。

「ネロ、ここもだ。一匹残らず解毒しろ。……こいつらはもう『魔物』じゃない。あんたらの仲間のための『食糧』だ」

「……あぁ。わかっている」

ネロが掌をかざすと、淡い紫の光が死体を包み込み、こびりついた毒素を浄化していく。イーグルはそれらをロープで手際よくまとめ、バックパックの外部フックに引っ掛けた。重みが増すが、仕事人プロにとっての「報酬」の重みだと思えば苦ではない。

洞窟を進む間、二人の間に言葉は少なかった。だが、背中を預け合い、獲物を回収するその動きには、奇妙な連帯感が漂っていた。

やがて、洞窟の入り口から差し込む薄暗い光が見えた。

外へ踏み出した二人の前に、岩肌に腰を下ろしていた紫の獅子――ダインがゆっくりと立ち上がった。その周囲には、飢えで目を血走らせたラビットマンたちが、今か今かと待ち構えている。

「……戻ったか、人族。そしてネロ」

ダインの低い声が響く。イーグルは無言で、肩に担いでいた斑狼の死体をラビットマンたちの前に放り投げた。

「……解毒済みだ。まずはこれを食え。話はそれからだ」

ラビットマンたちが貪るように肉に食らいつく。その凄惨な光景を背に、ネロが部族の前に進み出た。

「皆、聞け。……渓谷を呪っていた毒の源は絶った。だが、この地に留まっても飢えは続く。……私は、この人族の提案に――」

ネロが部族の命運を賭けた「決断」を口にしようとした、その時だった。

「待て、ネロ」

イーグルがその声を遮った。ハットの鍔を直し、冷徹ながらも確信に満ちた瞳でネロとダインを交互に見やる。

「全てを今ここで決める前に、一度俺に預けてくれ。なぁに、悪いようにはしない」

イーグルは、バックパックに収まった『赤の輝石』の重みを感じながら言葉を続けた。

「まずはネロ、お前はラビットマン代表として俺に同行しろ。次にダイン、あんたの役目だ。グリーンライオン族の集落へ俺たちを案内しろ。そこで待ってるサイラスとグラティカルにも話を通さなきゃならないからな」

場が凍りついた。三ヶ月間、血を流し合ってきた両部族。だが、ネロは数瞬の沈黙の後、自嘲気味に口角を上げた。

「……面白い。ならば、その場に私も同席させてもらおう。我が一族の行く末、その『清算』をこの目で見届けるために」

ダインもまた、鼻を鳴らして不敵に笑う。

「いいだろう。貴殿らが我らの集落に足を踏み入れることを許可しよう。毒霧が晴れぬうちに、カタをつけねばならんからな」

イーグルはタバコを一本取り出し、火を点けた。

「……いい判断だ。アリエルの店は、どんな事情持ち(ワケあり)でも受け入れる。……もっとも、あそこでの支払いは安くないぜ?」

渓谷を覆っていた霧が、わずかに薄らぎ始めていた。一人の仕事人が持ち込んだ「知恵」が、絶望に沈んでいた二つの部族を、まだ見ぬ未来へと繋ぎ合わせようとしていた。


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