261. 【闇の女神と巨大なる牙】
「キィィィィィィィッ!!!」
巨大蝙蝠が放つ超高波の叫びが、狭い洞窟内に反響し、イーグルの耳鳴りを加速させる。紫の毒霧が視界を奪おうとする中、隣に立つ紫の狩人が静かに弓を下ろした。
「イーグル。悪いが、あれは私が仕留めさせてもらう」
ネロの声は、先程までの冷徹な隠密のそれとは異なり、底知れぬ魔力を孕んだ重苦しい響きに変わっていた。
「サポートはいるか?」
イーグルはアサルトライフルのボルトを軽く引き、最短距離での射線を確保しながら問う。だが、ネロは不敵な笑みを浮かべ、闇の奥を見据えた。
「フッ……、好きにすればいい」
「それなら、タバコでも吸って見学させてもらうぜ」
イーグルはライフルの銃口を下げ、懐から一本のタバコを取り出した。ジッポの火が揺れる中、ネロの全身から紫黒色の魔力が溢れ出し、洞窟の壁を浸食し始める。
「闇の女神ケトリアスに我が魔力を捧げる。対価として我、大いなる力を求めん!」
ネロの鋭い詠唱が終わると同時に、空間そのものが軋みを上げた。
ミシミシと骨が軋み、筋肉が爆発的に膨れ上がる。痩せ細っていたラビットマンの体躯は、瞬く間に数倍へと膨張し、その頭頂は洞窟の天井、十メートル近くにまで達した。
巨大化したネロの瞳は、爛々と禍々しい光を放っている。その手には、主の体躯に合わせて巨大な大槌のごとき質量へと変貌した短弓が握られていた。
「ゆくぞ羽ネズミ。――鏖殺だ」
地鳴りのような咆哮。
巨大化したネロの一歩が石畳を粉砕し、逃げ場を失った巨大蝙蝠をその巨大な影が覆い尽くす。
イーグルは紫煙を吐き出し、グリーンの電子光に染まるゴーグル越しに、その「破壊の化身」の背中を静かに見つめていた。




