257. 【飢えた狩人と深淵の警告】
「……ついてこい。だが、余計な真似をすればその首、私が直々にねじ切る」
ダインの案内で、一行はさらに高度を下げた。イーグルは背後のグラティカルとサイラスを振り返り、短く告げる。
「あんたたちはここで待ってな。……隠密戦になる。1人の方がやりやすい。ダイン、あんたは案内だけ頼むぜ」
二人の制止を振り切り、黒のロングコートが霧の奥へと消えていく。
たどり着いたのは、巨大な樹木の根が複雑に絡み合い、天然の防壁と化したラビットマンの集落だった。
門の前に足を踏み入れた瞬間、無数の「殺気」がイーグルを射抜いた。
「人族が何の用だ? ……ここまで来れるとは、相当な毒耐性持ちか?」
樹上、岩陰、あらゆる死角から、独自の細工が施された短弓やクロスボウがイーグルに狙いを定めている。現れたラビットマンたちは、皆一様に頬がこけ、痩せさらばえていた。だが、その瞳に宿る殺意は鋭利な刃物そのものだ。
不意に、背後の空気がわずかに揺れた。
(……速いな。流石は隠密の専門家だ)
イーグルが動くよりも早く、二頭の黒いラビットマンが音もなく背後に立ち、その逆手に持った短剣の先をイーグルの項へ突きつけていた。
「……いや。この毒に対しては、グリーンライオン族の秘宝でなんとか誤魔化しているだけさ」
イーグルはハットの鍔を動かさず、冷静に言葉を返した。
「俺はあんたらの命を獲りに来たんじゃない。『赤き輝石』に用があるんでね」
その言葉に応じるように、集落の奥から一際異彩を放つ個体が姿を現した。
ダインと同じく、突然変異の証である「紫」の毛並み。小柄ながらも、その全身から溢れるプレッシャーは他のラビットマンとは一線を画している。
「赤き輝石、か……」
パープルラビットマンはイーグルの前まで歩み寄ると、その濁りのない瞳で彼を凝視した。
「あれは今、封印が解けかけている。その影響で周囲の生物は異常なまでに凶暴化し、我らが口にできるのは、その残骸のような弱りきった食料だけだ。……グリーンライオン族と奪い合う他、生き残る道はない」
「……なるほど。元凶はやはりその石ってわけか」
イーグルは、回収した彼らの武器――クロスボウの感触を思い出した。正気でありながら飢えに苦しむ彼らにとって、侵入者は「敵」か、あるいは「現状を打破する駒」か。
「清算するには、その『封印』とやらを叩き直す必要がありそうだな」
毒霧の底、飢えた狩人たちの視線に晒されながら、イーグルはリボルバーの重みを確かめた。




