255. 【紫の獅子と鉄の洗礼】
「ドォォォォン!」という重厚な閉門音が、毒霧の殺意を一時的に遮断した。
グリーンライオン族の集落は、断崖を削り取った天然の要塞だった。広場では、筋骨隆々の獣人たちが巨大な石柱を担ぎ、あるいは鋭い爪で岩を砕くといった、凄まじい「鍛錬」に励んでいる。そこには、弱肉強食を地で行く部族の熱気が渦巻いていた。
イーグルは壁に背を預け、先程回収したラビットマンの武器を手に取った。
(……独自の滑車機構、それに魔獣の腱を使った高張力の弦。これだけの静音性と貫通力を両立させてやがる。フェネカなら泣いて喜ぶ「工芸品」だが……これを扱う連中が正気だってのが一番厄介だ)
プロとしての警戒を強めるイーグルの横で、長グラティカルが苦い表情で集落を見渡した。
「イーグルよ。見ての通り、我ら一族は日々、牙と爪を研ぎ澄ませている。だが、武力だけでは腹は満たせん。このポイズンミストでは農作物は育たぬ。我らは長年、最下層のダンジョン付近に住まうラビットマンどもと、数少ない食料を奪い合ってきた。だが奴らの狙撃に、我らは今、飢えに瀕している」
その時、鍛錬の喧騒がふっと消えた。
広場の奥から、一際巨大な影が歩み寄ってくる。
身長は約2.5メートル。長グラティカルをも見下ろすその巨躯は、一族では極めて稀な突然変異種――深みのある紫色の毛並みに覆われていた。次期族長候補、ダイン。毒霧をものともせず、自己治癒魔法に長けた「不沈の戦士」だ。
「……長。こいつが、外から連れてきたという『人族の戦士』か?」
ダインの声は地鳴りのように低く、周囲の空気を震わせた。彼はイーグルの前に立つと、大きな掌を差し出した。
「私はダイン。我が一族の流儀に則り、貴殿に決闘を申し込む。……この地で生きる資格があるか、その身で示してもらおう」
イーグルはハットの鍔を指で弾き、無言でその巨掌を握り返した。万力のような握力。だがイーグルの手もまた、戦場を渡り歩いてきた鋼の硬さを持っていた。
「イーグルだ。……あんたのような化け物と素手でやり合うほど、俺は自分を過信しちゃいない」
手を離したダインが、傲岸不満ではなく、純粋な戦士としての敬意を込めて言った。
「構わん。貴殿の最も得意とする武器を使うがいい。小細工も魔法も関係ない。最後に立っていた者が、この地の真実を掴む。……それが我らの掟だ」
イーグルはニヤリと不敵に口角を上げた。バックパックからアサルトライフルを手に取り、腰のリボルバーの感触を確かめる。
「……いいぜ。プロの『清算』のやり方、たっぷりと拝ませてやるよ」
広場に円陣が組まれ、飢えた獣たちの視線が中央の二人に注がれる。




