252. 【硝煙の代価と不敵な戦士】
霧の向こうから、低い唸り声と共に影が跳ねた。毒斑を纏った狼の一団が、死角から同時に三方、イーグルの喉元を狙って牙を剥く。
だが、イーグルの身体は既に動いていた。
パンッ!
乾いた銃声が一閃。リボルバーから放たれた鉄の玉が、先頭の狼の眉間を正確に穿つ。着弾の衝撃で脳漿をぶち撒け、狼が地面に転がるよりも早く、イーグルは残る二頭に向けてシリンダーを回転させた。
パンッ、パンッ!
流れるような二連射。跳躍の軌跡をなぞるように放たれた鉄球は、空中で標的の命を刈り取った。無駄のない重心移動と、標的を「点」で捉える精密射撃。それは魔法も魔力も介さない、純粋な技術の極致だった。
「キキッ……!? なんだあの武器は。あんな小さな玉一つで、あの硬い毒狼を……!」
サイラスが驚愕に触角を揺らす。
しかし、群れは止まらない。銃声を聞きつけ、霧の深淵からさらに十数頭の影が、波のように押し寄せた。一頭が背後からイーグルのコートの裾を狙って食らいつこうとする。
イーグルは振り返ることもなく、左手に持った「ステッキ」を後方へ突き出した。
「……密着しすぎだ」
フェネカ特製のステッキ型スタンガンの先端が、狼の胸板に触れる。
バヂィッ!!!
凄まじい放電音と共に、青白い電撃の華が咲き誇った。数万ボルトの電圧を受けた狼は、絶叫を上げる暇もなく全身を硬直させ、白目を剥いて崩れ落ちる。そのままイーグルはステッキを旋回させ、横から飛びかかってきた別の個体の顎を、物理的な打撃と電撃の同時見舞いで粉砕した。
「……ふむ」
腕を組み、静観していたグラティカルの目が、鋭く細められた。
イーグルの動きに、一切の迷いはない。弾丸の数、敵との距離、そして電力の消費。そのすべてを計算し、まるでマシンのように効率的な「清算」を行っている。
最後の一頭がイーグルのハットを掠めて跳んだ時、彼はバックパックから折りたたみ式のアサルトライフルを瞬時に展開。展開から初弾発射まで、コンマ数秒。
ダダダダンッ!
三点バーストの銃声が響き、宙を舞っていた狼の胴体を蜂の巣に変える。
静寂が戻った渓谷には、硝煙の匂いと、焼き焦げた獣の臭いだけが漂っていた。
「……終わったぞ。ギルドの依頼があるから、首を10頭分もらう」
イーグルはハットの鍔を直し、リボルバーに新たな弾丸を込めた。死体から淡々と証拠部位を回収するその姿に、グラティカルはゆっくりと歩み寄り、死体の山を一瞥して低く唸った。
「魔力を持たぬ武器で、ここまでの殺傷力。……人族の『技術』、そしてそれを操るお前の胆力。見事だ、イーグル。お前をただの『客』ではなく、一人の『戦士』として改めて歓迎しよう」
「過大評価だ。俺はただ、効率のいい道具を使ってるだけさ」
イーグルは皮肉げに口角を上げると、まだ見ぬ深淵、サイラスの集落がある上部へと再び歩き出した。




