249. 【ギルドの長と黄金の報奨】
アストラル・ノアの中心部にそびえ立つ、冒険者ギルド。その最上階にある、静寂に包まれた重厚な扉の前に、アリスとフェネカは立っていた。
二人の手には、ヴァレスが一点の曇りもなく丁寧に仕分けし、ローズが完璧な証拠資料を添えた「デッドロック遠征」の成果物がしっかりと握られている。
「失礼するッスよ、おじいさん」
アリスが物怖じせずに扉を跳ね上げるように開けると、そこには数千年の時を刻んできたムーン・エルフの老人が、山のような古文書と書類に囲まれて座っていた。
ギルドマスター――アリエルとも旧知の仲であるその老エルフは、鼻先にずれた眼鏡の奥から、闖入者たちをじろりと見据えた。
「ナニカ……用カ……、アリエル殿……ノ……従業員……」
掠れた、しかし重みのある声が広い室内に響く。アリスは臆することなくカウンターへ歩み寄ると、抱えていた袋をドサリと置いた。
「言伝じゃないッス。これを見て欲しいッス!」
袋から取り出されたのは、周囲の温度を一気に奪うほど鮮烈な冷気を放つ『氷結の実』。そして、ガランフィール街道を震え上がらせた盗賊たちの首級に代わる証。さらには、多くの冒険者が命を落とした極北の地で、雪に埋もれていた数々の遺品だ。
「……コレハ……」
老エルフの表情から余裕が消えた。彼は震える指先で『氷結の実』に触れ、その尋常ならざる純度を確かめるように目を細める。
「デッドロックノ……ガランフィールノ……依頼カ……?」
その問いに、傍らで腕を組んでいたフェネカがシニカルな笑みを浮かべ、琥珀色の瞳を鋭く光らせた。
「あぁ。ガランフィール・ギルドが受理した依頼だ。採取、討伐、回収……。ギルドのシステムは共通だろ? あいにくこいつを持ち帰るのに随分と手間がかかったんだ。適正な価格での清算を頼むよ、ギルドマスター」
老エルフは深く、長くため息をついた。その溜息には、驚嘆と、そしてプラチナの面々に対する畏怖が混じっていた。
「ホッ……ホッ……。ムーン・エルフノ……誇リニカケテ、スベテ……言イ値デ……買イ取ル。……コノ実ノ……純度……ソシテ回収サレタ……魂(遺品)ノ数……」
老エルフは重い腰を上げ、壁一面を占める巨大な金庫の鍵を開いた。重厚な歯車が噛み合う音が室内に響き、中から眩いばかりの輝きが溢れ出す。
「採取・討伐・遺品回収……。合計デ……金貨400枚ト……銀貨20枚ダ。……持ッテ行クガイイ」
カウンターに並べられた金貨の山。デッドロックでの死闘が、ついに黄金の重みへと姿を変えた。




