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242. 【黄金の賢獣と共生の契約】

地響きを立てて迫りくる巨躯。その中心に君臨する「三目黄金熊」が、あと数歩で激突するという距離でぴたりと足を止めた。額にある第三の瞳が、トリトスを射貫くように見つめる。

「……待て。私は、血を流すことを望まぬ」

低く地鳴りのような声が、直接脳内に響いた。驚きに目を見開くローズとヴァレスを余所に、トリトスは3重の手袋をはめた拳をゆっくりと解く。

「……言葉を解するか。単なる獣ではないな」

「私は紫の輝石の封印が解かれたことにより、突然変異した知性を得た種である。私達は無駄な事は避けたい。お互いに利のある取引がしたい」

黄金の毛皮を揺らし、巨熊は恭しく頭を下げた。その理知的な振る舞いに、トリトスは口角をわずかに上げる。

「ほぅ……、いいだろう。面白い。我らに何を求める。そして、何を差し出す」

「安定した食料の供給と寝床だ。この地の冬は年々厳しさを増している。差し出せるのは、この『氷結の実』の効率的な栽培方法と、妖精の契約方法。それと、貴殿らの仲間を守るための武力だ」

それを聞いたローズが、即座に脳内の損得計算を開始した。

「安定した栽培方法……。貴方たちには出来ないの? それに、ここには妖精がいるというの?」

「氷結の実は、魔力を与え続けなければならない。私達には安定した場所がない。畑を耕す事も、魔力を出し続ける事もできない。妖精は存在するが、かつて人間が乱獲し見世物にしたため、今は姿を隠し、妖精のみが住まう秘匿の地へ移動してしまった」

「……妖精、ですか」

ヴァレスが興味深そうに耳をそばだてる。トリトスも、かつての魔王としての知識を照らし合わせるように問いを重ねた。

「我のような魔族でも、その妖精と契約できるのか?」

「出来る。妖精の質は様々だ。知識を欲するものや、外の世界への旅を夢見るものもいる。魔族と契約したいと願う妖精も、きっといるはずだ」

黄金熊の答えに、ローズは不敵に微笑んだ。

「いいわ、その条件なら取引は成立ね。ブラッドアイ族と共存すれば、お互いに最大の利になるわ。私たちが村との橋渡しをしてあげる。……まずはこの実の採取を終えてからだけど、あなたたちも付いてきなさい」

「感謝する、知恵ある者たちよ」

黄金熊が静かに咆哮を上げると、周囲の三目白熊たちが座り込み、一行の作業を見守る「衛兵」へと変わった。極北の冷気の中、人間と魔族、そして異変が生んだ賢獣による、奇妙な協力関係が結ばれた瞬間だった。

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